文化 鰊御殿とまり ごてん 令和7年12月号

■雪…白い季節
鰊御殿とまり館長 増川 佳子

昨年の11月号に「私の秋のイメージは真っ赤です。」と綴りましたが、今年は秋が急に訪れたせいか赤味が少なく感じました。冬が近づくにつれ、窓から見える景色の色が少しずつ白くなり、いよいよ色を失った草木や空や空気を白い雪が覆う季節となります。
「雪かぁ。」とつぶやきながら『鰊御殿とまり』の施設の中を巡って雪に関わる道具達を探しました。1つは、木でできた“雪かき”。今ではプラスチック製の軽くて大きなものに取って代わりましたが、私の子どもの頃にはさらさら雪をかくのに使われていました。雪が付かないように表面にロウを塗ったりしていたように思います。2つ目は、“カンジキ”。館内に3つ4つありました。除雪車や除雪機がなかった頃、長靴では埋まってしまう厚い雪の上を歩く時に足につけた道具です。今でも深雪の山を歩く時に使われているようです。桑やタモの木を使用して、歩きやすいように先をそらせたもの、すべり止めのためにつめをつけたものもあったようです。そして3つ目が、昔のスキーと竹製のストック。皮でできた輪に靴を通して足先の金具をガシャンと前に倒して装着完了で、かかとが浮くタイプです。ちなみに、竹製のストックは、軽くてしなやかで強度があり、現在も愛好者がいらっしゃるようで、ネットなどでも販売されています。
さて、「雪、冬、寒い」とつぶやきながら巡った館内で目に留まった中に武井邸客殿商談の間がありました。武井邸客殿は平屋造りですが、大変天井の高い建物です。しかし、この建物には囲炉裏が切っておりませんので、凍えるような季節には使われなかったことがわかります。
入ってすぐの部屋が商談の間。親方武井忠吉と鰊の加工品を買い付けにきた商人がお酒を酌み交わしながら価格交渉をしています。武井忠吉は羽織の上に半纏をかけ、商人も厚めの生地でできた背広を着ています。机の横には火鉢があり、鉄瓶がかけられているところを見ると、晩秋の頃と思われます。現在は展示のために襖や障子を開け放していますが、締めきった中での1対1での商談はさぞ緊張したことでしょう。2人の表情のどちらにも笑顔はなく、和やかな雰囲気とはいえない理由が推測されます。鋭い眼差しの忠吉親方に勧められたお酒の味はいかがなものだったのでしょうか。

◎机の上には商談グッズが並んでいます。そろばん(五玉)、硯、伝票、判子箱、金庫…。珍しいところでは“矢立”。矢立は、NHK 大河ドラマ『べらぼう』でもたまに見かける、墨壺と筆を組み合わせた携帯筆記用具です。