くらし タンチョウ博士のお話(第40回)

■タンチョウが繁殖のため住む範囲を何と呼ぶ?
私が大学に入った頃、え~と、今から75年ほど前のことですが…、暴力団の勢力範囲のことを“縄張(なわば)り”と呼んでいました。ひとつの暴力団が支配する範囲を、他の暴力団やその他と区別するためです。実際に縄は使わず、場所ごとの境界の目印、例えば道路、建物、住んでいる人、などなどがあったでしょう。
ただ、縄張りとは、建物などを造るとき、縄を張ってその場所を示したのが語源(ごげん)で、作業上、土地や工事の範囲を示す杭(くい)や板などを縄の代わりに立てるのは、今も普通に行われていますね。
ところが、私が大学生時代に京都大学の研究者たちが、サルの社会生活にも「なわばり」構造があるのを見つけました。以後、鳥も含めた多くの動物の生活で、「なわばり」は重要な意味を持つことが解(わか)ってきたのです。タンチョウも広い湿原の中に「なわばり」を構えて繁殖(はんしょく)することが、1960年代に初めて報告されました。餌が狭い範囲にたくさんあり、安全に巣づくりできる場を選んだ夫婦は、せいぜい2平方キロメートルを、餌があちこちに散らばる場を選んだ夫婦は7平方キロメートルぐらいが「なわばり」の広さでした。
最近はツルの数も増え、「なわばり」の広さは2-3平方キロメートルが標準的(ひょうじゅんてき)です。「なわばり」の中に冬も餌のとれる川などがあると、タンチョウは年中(ねんじゅう)同じところで暮します。しかし、秋が深まると多くは繁殖地を離れ、凍らない川や給餌場へ餌を求めて移動し、舞鶴の家族も日高へ移って冬を越します。また、巣の位置もその年の環境条件などで変わり、舞鶴では同じ夫婦が、2020~23年は遊水地内の南東の端(はし)の方に、24年は西の鳥の駅マオイトー近くに、25年は中央南やや東寄りに巣をつくりました。つまり、特別なケースを除き、その年の状況次第で巣の位置は変わるのが普通です。舞鶴では同じ遊水地内の同じ夫婦なのに、23年と24年で巣の間は1km以上離れています(図参照)。
さてここで、昨年の秋以来問題となっている釧路のメガソーラーパネル事件に触れておきましょう。湿地開発の計画段階で、タンチョウについて“専門家”から問題ないとお墨付(すみつ)きをもらったという、開発会社の責任者の発言を映像でご覧の方も多いでしょう。その“専門家”は、個人としてではなく、NPOの代表者として、開発予定地でツルは餌を獲ることはあるだろうが、これまで巣はつくられてないので、開発しても問題ないと回答したのです。そのため、土地は一挙(いっきょ)に裸地(らち)に変えられました。
しかし、問題の場所を“専門家”として調査してもいないし、報告書など無いようです。現在、タンチョウは数が増え、住める場所が少なくなってきています。餌のあるところと巣をつくれる場所が一体となった、つまり「なわばり」を保てる環境は残しておかねばなりません。採餌場(さいじば)がなくても、巣をつくる場所があれば大丈夫、と言う“専門家”の態度に、私は呆(あき)れるばかりです!皆さんはいかがですか。(文:正富宏之)

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