くらし タンチョウ博士のお話(第38回)

■カラスは野鳥ですか?
物心がついて、最初に覚えた鳥が何だったのか、もう90年近い昔のことで覚えていません。が、おそらく庭へ来たスズメか、家の前に置いたごみ箱をあさるカラスだったのでしょう。5-6歳ころの夕方、札幌の西外(にしはず)れにあった家の2階から、陽の沈む茜色(あかねいろ)の空を、円山(まるやま)へ向かい三々五々と塒(ねぐらがえ)りするカラスを眺めた情景は、今でも記憶に残っています。
ヒトが囲いの中に入れ、餌を与えている「飼い鳥」と違い、そうしたスズメやカラスは自然の中で自由に動き、自分で食べ物を探して暮らす「野鳥」に間違いありません。確かに、ごみ箱の中の生ごみはヒトの作った物ですが、カラス専用のものでありません。
では、タンチョウはどうでしょう。前世紀の初め、タンチョウは絶滅かと思われるほど数を減らしました。慌(あわ)てたヒトは、ドジョウを放流するなどして餌不足を補(おぎな)おうとしたものの、さしたる効果もなく1952年を迎えます。その1-2月に起きた寒波と大雪により、ヒトが与えた餌(コーン)を十分食べたことでタンチョウの復活が始まりました。皆さんご存じのように、雪の給餌場でそりに餌を積み、ツルの目の前にコーンをまく風景が今も続いています。
大きな鳥籠(とりかご)はないものの、飼い鳥と同じくヒトが毎日餌を与えますから、野生の鳥と言えるでしょうか。つまり、タンチョウは今や飼い鳥と野鳥の中間の、「半飼い鳥」か「半野鳥」です。しかし、冬のある期間を除いて、繁殖期にヒトは餌を与えませんから、まあ、野鳥だと言えるでしょう。
確かに長沼町のタンチョウは、冬は日高で野生生活を送り、初春から初冬までは、遊水地内の動植物や付近の農家の水田や畑で栽培植物(さいばいしょくぶつ)などを餌として獲ります。水田や畑はごみ箱でありませんから、収穫前の耕地での食害は許せない行為です。しかし、立ち入り禁止の札を立ててもツルに通じませんし、囲い柵(さく)もかなりしっかりしたものが必要です。
最良の策は、ヒナの成長に十分な餌が効率よくとれる状態を、遊水地内に作ることです。舞鶴遊水地内には広い草地予定地があり、幸い(?)現在全く利用されていません(図1)。そこの一部に多少手を入れ、タンチョウの餌となる作物等を野草なみに粗放栽培(そほうさいばい)し、育雛期(いくすうき)の餌資源(えさしげん)とする案です。
なるほどこれも、ヒトが行う一種の給餌行為と言えます。なるべく野鳥のままのツルに接したいと願う長沼町のヒトには、違和感があるかもしれません。しかし、タンチョウが広い湿原の鳥から、すでに人里(ひとざと)の鳥へと変貌(へんぼう)した現状では、ごみ箱を利用するカラスを野鳥とみなすのに倣(なら)い、タンチョウは野鳥だと納得するしかないのかもしれません。皆さんはどのようにお考えですか?

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