くらし しかりべつ湖

◆『若い生命』
鹿追市街地よりも一足遅れて春や夏がやってくる然別湖。春夏が平野と比べて短い分、生き物たちの活気が短期凝縮で楽しめるのも山の良いところかもしれません。
この季節は植物たちが一斉に成長し可愛らしい花を開花させます。スミレの淡い紫色、ヒメイチゲの小さく可愛らしい白色。コキンバイの目の覚めるような黄色。どの花たちも毎年可憐な姿を魅せてくれる事が嬉しく、彼らを育む土壌の豊かさに感心してしまいます。
植物が出てくる時を合わせて昆虫たちも姿を現します。自分の好みに合った植物を見つけては食欲旺盛に食べています。食べっぷりは気持ちの良いもので、日を追うごとに丸々としていきます。
虫を求めて野鳥も子育てに活用しています。この短期間に多く育つ虫を求めて、わざわざ南国からこの地を目指して渡りをしてくるのですから。森は命の連鎖でにぎわいに満ちています。
ある日、森の中で作業をしていると、私たちの道具のそばにエゾハルゼミの羽化したての若者がいました。その身体はまだ新緑色で乾いていない様子。翅が乾くまではきっと飛べないのでしょう。ジーと動かずにいます。我々も、作業途中にぶつからないように頭の片隅で気にかけていました。この無防備な時間に鳥や動物に見つかっては抵抗もできずに食べられてしまうことでしょう。たまたま、人間の活動範囲の中に入れたので天敵が寄り付けずにいたのかもしれません。
このセミの初々しい姿は、ガラス細工のように美しく、時々作業の手を止めては、セミを観察してしまいました。動けないのかと思っていましたが、実はものすごくゆっくりと木を登っていました。スーパースローモーションのような動きで、わずかばかりでも人間から離れようと努力していたのでしょう。
3時間ほど経った時、振り向いたらこの若者のセミの姿はありませんでした。翅も乾きしっかりとそして静かに飛翔して行ったのだと思います。エゾハルゼミはセミの中でもその虫の音は涼やかで高音系です。騒音と言われがちなセミの音ではありますが、エゾハルゼミはこの新緑の季節に合っているように感じます。小さな生き物たちを観察しながら、春の虫の音に包まれるのも素敵な森林浴ですね。

写真・文:然別湖ネイチャーセンター
【URL】https://www.nature-center.jp