- 発行日 :
- 自治体名 : 北海道浦幌町
- 広報紙名 : 広報URAHORO 令和8年1月号
■浦幌町の風が紡ぐ記憶、土が支える命
▽うらほろアンバサダー 山瀬理恵子
《PROFILE》Rieko Yamase【やませりえこ】
浦幌町出身。アスリート向けの料理を中心とした料理研究家。元小学校教諭。専門分野は植物化学成分療法・分子整合栄養医学・スポーツ栄養食で、フードコーディネーターなど多数の資格を持つ。京都新聞にて長期連載「アス飯」を執筆し、2017年に本として出版。現在は山口県を拠点に活動中。夫は2025年2月に25年間のプロ生活を終えて引退した元Jリーガーの山瀬功治選手(元日本代表)。
北の大地の透き通った青い空。見渡すかぎりの大自然に抱かれ、私は北海道十勝郡浦幌町の農家で生まれ育ちました。春夏秋冬、頬を走り抜ける力強い風と共に過ごした自然共存の暮らし。雪の残る冷たい時季に種をまき、凍える指先で土をならしながら、芽吹いたばかりの小さな命に寄り添い見守る日々。雨の日も風の日も、無償の愛を注ぐ家族の背中は、いま尚、魂の奥底で輝きを放っています。
どんなに手を尽くしても、嵐ひとつで実りが一瞬にして失われる。そんな悲痛な現実に何度も直面しました。それでも、祖父母や両親は畑へ向かうのです。いかなる時も前を向く覚悟。その姿に触れ続けたお陰で、私の座右の銘は「柳に雪折れなし」になりました。倒れても凛として再び立ち上がるしなやかな強さは、浦幌の地が授けてくれた、揺らがぬ礎へと育まれていきました。
思い返せば、我が家の食卓には今この瞬間に実る畑や山の恵みが四季折々に並んでいました。煮物や焼き魚、生野菜におみそ汁。飼っていた鶏の卵。祖母の手作りの豆腐や漬物、味噌、納豆。庭で色づく梅、ヤマブドウやコクワ、グーズベリー。食べ物の命をもぎ取る行為は感謝の心を育て、「食が心と体をつくる」という確固たる真実を、五感で深く刻む時間でもありました。こうして料理研究家として今を生きる私の原点には、浦幌町での暮らしがあります。忍耐、継続、感謝。特別な教えではなく、日常の中で息をするように受け取ってきたもの。いつしか自らの軸となり、家庭を支える営みへと自然に流れ込んでいったのです。
これまで私は、サッカー選手である夫・山瀬功治を妻として24年間サポートしてきました。選手生命を脅かす四度の大怪我を乗り越え、日本代表として活躍。そしてJリーグ24年連続ゴールという日本記録をともに迎えられたのも、浦幌町で培われた価値観が根底にあったからこそ。アスリートを支えることは、作物の命を育てることと同じ。毎日の食事は「明日も前に進めますように」という、深い祈りそのもの。
この経験は、男女共同参画の視点にもつながっています。浦幌町では、誰が何を担うのかではなく、必要なときに必要な人が動き、互いに助け合う協働の文化が、ごく自然に根付いています。農作業の合間に庭の花畑を鮮やかに彩る祖母の優しい面差し。薪を割る祖父が時折見せる爽やかな横顔。味噌汁を仕上げる母の手元から立ちのぼる湯気の温かさ。トラクターの上で汗をぬぐう父の逞しい後ろ姿。繁忙期に応援に駆けつけてくれる親族やご近所さん。その一つひとつが、原風景として鮮烈に甦ってくる。
家庭を守ることも、仕事に向き合うことも、互いを尊重し支え合いながら歩むこと。このあり方こそ、故郷・浦幌町から受け取った何ものにも代えがたい力です。
これからも浦幌町で受け継いだ誇りと生き方を胸に、食材の命をつなぎ、世界中の人々の心と体を支える料理を、丁寧に紡いでいきます。
