くらし 特集「仲間たちとともに」(1)

■県勢35年ぶりの快挙
10月25、26の両日に北海道勇払郡安平町で開催された「第16回全日本ホルスタイン共進会」において、上帯島の清水牧場が出品した「シミズファーム リンジーサラダ」が第7部の国産経産牛部門で最高賞である優等賞1席に輝きました。
全日本ホルスタイン共進会は「乳牛のオリンピック」とも言われています。健康で長持ちする乳牛を育てる目的で1951年から始まった歴史ある大会で、今回は全国から約400頭がエントリー。年齢や出産経験の有無などで部門を分け、乳牛に求められる泌乳能力を有しているかを「体貌(たいぼう)と骨格」「肢蹄(してい)」「乳用強健性」「乳器」の4大区分と14の小区分による審査基準に沿って採点されました。
審査講評では「簡単に1位と決めることができた。厳格鮮明、非常に前中後躯に正しいものを持っている。前乳房の付着と形状も素晴らしく、後乳房の高さと幅もあり、歩様も軽やかであった」との評価を受けました。同共進会での部門別1位は、県勢としても35年ぶりの快挙です。
11月12日、清水繁勝(しげかつ)さんと長男の利月(りつき)さんらは種市庁舎を訪れ、岡本正善町長と水上信宏前町長に受賞の喜びを報告。岡本町長は「これからの本町の酪農が、ますます明るいものになると感じた。本当におめでとうございます」と功績をたたえました。
清水さん親子と、大会に同行した関係者に話を聞きました。

ー大会を振り返って
繁勝さん…自宅から配信で見ていたが、他の牛と比較しても上位の成績になるのは間違いないと思った。世話とかは息子に好きなようにやってもらっていたから、それが良い結果につながったと思う。
利月さん…今年は特に力を入れてきただけあって、とてもうれしかったです。大会当日を迎えるまでは、出品牛はネットなどでも見ることができて、自分の牛の前評判が良かったこともありプレッシャーに感じていました。さらに、牛が体調を崩してしまったのですが、獣医さんや帯同した仲間たちのサポートもあって、現地で回復してくれて良い結果につながったのでほっとしています。

ーリンジーの魅力や強みは?
利月さん…そこまで大きくはないけれど、乳房の質感と全体のバランスが良いですね。欠点の少ない牛で今の時代に合った牛だと思います。

ー今回の全国大会に向けて取り組んだことは?
利月さん…牛に大きくなってもらうために、牧草などの飼料を食べられる最大量を少しずつ増やすようにしてきました。

ーリンジーが生まれるまでの道のりは?
繁勝さん…水上前町長の時に始めてくれた、優秀な牛の受精卵を受胎させる町の補助事業でリンジーの母牛が生まれ、大きな大会でも成績を残せました。その頃から陸中ホルスタイン改良同志会(以下、同志会)の会員に良い牛が増え、うちではリンジーが生まれてきてくれました。
利月さん…母牛が清水牧場の名前を広めてくれた1頭でもあるので、期待していた子牛でしたが、良い牛が生まれてきてくれました。

ー酪農を始めるきっかけは?
繁勝さん…東京で大工をやっていましたが、父が体調を崩したこともあり地元に戻って酪農を始めました。
利月さん…いずれは家業の酪農を継ごうと思っていましたが、県立農業大学校で共進会(大会出品)の面白さに触れたのがきっかけですね。

ー仕事で大変なことは?
繁勝さん…暑くても寒くても、朝早くから牛の世話をしなければならないことや、牧草も自分で収穫したりと、やることは多いです。うちは毎日2回搾乳して、1日で1頭あたり30キログラムの牛乳が絞れるので、搾乳したタンクを何往復も運ぶのが大変です。
利月さん…牛は寒さには強いけど暑いのが苦手で、夏場の体調管理が特に大変です。

ーやりがいを感じる瞬間は?
繁勝さん…大変なことが多いけど、やればやっただけ収入につながるところです。
利月さん…手をかけた分だけ牛が応えてくれるとこですね。すぐに変化はないですが、半年後とかに、自分が思い描いたように成長していると面白いと思います。

ー洋野町で酪農をして良かったと思うことは?
繁勝さん…やっぱり同志会の仲間だったり、自分が酪農を始めた時からお世話になっている獣医の先生たちといった、良い仲間との付き合いができたのが何より良かったと感じています。
利月さん…私も人との出会いですね。今回のように良いことがあったら、同志会の仲間たちが自分のことのように喜んでくれる。みんなで喜び合える人たちと酪農をできるのが良いなと思います。

ー地域の酪農はこれからどうなっていくと思いますか?
繁勝さん…今回は町から3頭、同志会から6頭が全国大会に出品でき、レベルが上がってきているので、これからも大会で勝ち上がれるような良い牛がたくさん出てくると思います。

ーどんな牛を育てたい?
利月さん…牛の個体能力の底上げをして、乳量がたくさん取れて、病気になりにくい牛が飼いやすい牛だと思うので、そういった改良に向けて力を入れて取り組んでいきたいです。

ーこれからの抱負は?
繁勝さん…この地域でまだまだ良い牛を生産できると思うので、酪農で地域を盛り上げて「酪農の町」と言われるようになったらうれしいです。
利月さん…もっと酪農を通して町外からも地域に人を呼び込めるよう盛り上げていきたいです。イベントなどで、酪農に触れて体験できるような機会もつくっていければと思います。

■団結力が結果に
新岩手農業協同組合 久慈営農経済センター
北村智哉(ともや)調査役

大会に同行した北村さんは今回の大会を間近で見て「これまでの結果を見ていても、やはり北海道の牛が強く、全国の舞台で県産牛が、しかも久慈地域で生まれ育った牛が高く評価されてうれしく思います。1位と聞いた瞬間は、込み上げてくるものがありました。さまざまな業種で後継者が不足している中、この地域では、県内でも珍しいくらい若い世代の仲間がたくさんいて、団結力も非常に高いと感じています。そのチームワークが今回の結果にもつながったのではないでしょうか。これからも色々と共有しながら切磋琢磨していって欲しいですし、私たちもサポートしていきたいです」と思いを語りました。