- 発行日 :
- 自治体名 : 群馬県桐生市
- 広報紙名 : 広報きりゅう 令和8年2月号
◆(10)美の才能を生み出す〔産地〕でありたい。
東京藝術大学美術学部絵画科准教授 アーツ前橋チーフキュレーター 宮本 武典(みやもと たけのり)
私が教員をしている東京藝術大学油画専攻では、90年代の半ば頃から教員・学生・卒業生らが桐生市内のノコギリ屋根工場や煉瓦(れんが)蔵などで滞在制作や作品展示を行ってきました。その背景として、当時、制約の多い公立美術館や作品売買のための画廊といった、既存の美術空間に窮屈さを感じていたアーティストたちが、もっと面白い場所、広い空間、その場で制作して展示できるロケーションを求めた結果、東京近郊のものづくりの街・桐生にたどり着いたのです。
令和5年からは大学院の合宿を有鄰館や旧曽我織物工場などで毎年実施し、次代を担う芸術家の育成に桐生市のご支援もいただけるようになりました。昨年は桐生大学とも連携するなど協働の輪は着実に広がり、今年秋にここまでの3年間の実践をもとに、小規模ながら地域芸術祭の立ち上げに挑戦します。この街の今昔を表現するアートを鑑賞しながら街歩きを楽しんでいただける、そんな教育と観光を掛け合わせたプログラムにしたいと考えています。
その上で、私の専門性では知見が及ばない領域があります。それは「ファッション」です。桐生は古くから地場産業である織物を中心に、街区も学校も、お祭りも信仰も作られてきました。桐生で芸術祭を始めるなら、ファッションでも新たな才能の育成と発掘につながる芸術祭でありたい。そこで、信頼するデザイナーの山縣良和(やまがたよしかず)さんに、この活動に加わっていただくことにしました。
山縣さんは自身も著名なデザイナーですが、東日本橋でファッションを学ぶ「coconogacco(ここのがっこう)」を主宰し、近年ではLVMH(モエ・ヘネシー・ルイ・ヴィトン)が主催するプライズに教え子が続々とノミネートされるなど、優れた教育者としても知られています。その指導は技術面だけでなく、学生個々のルーツやアイデンティティを衣服でどう表現させるかを重視するもので、藝大油画の指導方針とも合致します。
産地・桐生でものづくりの歴史・誇り・課題をしっかり伝えながら、アートとファッションの才能たちが共に学び、創造し、そのみずみずしい視点と作品を私たち地域住民に還元してもらう。令和8年は、そんな新しい成長の風景を支援者の方々と一緒に立ち上げる年になりそうです。
