くらし 特集 多様な生き物たちが返ってきた!

■NPO法人雨読晴耕村舎のネイチャーポジティブな水田づくり
皆さんはネイチャーポジティブという言葉を知っていますか。生物多様性の損失を食い止め、自然を回復軌道に乗せるという考え方です。今年1月、野生での絶滅状態から野生復帰を果たした宝蔵寺沼のムジナモの事例はまさにその象徴でした。
今回は、ムジナモに続くネイチャーポジティブな取り組みを紹介します。

7月中旬、NPO法人雨読晴耕村舎が管理する市内の水田で、県が絶滅危惧種に指定するタガメの幼虫が発見されました。これまで令和2年に、同団体が管理する別の水田でタガメの成虫が見つかっていましたが、幼虫の発見は今回が初。
自然繁殖しているということになれば、県内では21年ぶりの大発見となります。

◆雨読晴耕村舎の稲作
雨読晴耕村舎では、土を耕さず、水田にいる生き物や植物など自然の力を利用した、不耕起栽培での稲作を行っています。トラクターなどの大型機械を使わず、農薬や化学肥料も使用しないため、自然環境にも優しい栽培方法です。

○ネイチャーポジティブ実現のイメージ図
2020年を基準に、2030年までに生物多様性の損失を反転させる
※図の詳細は本紙またはPDF版をご覧ください。

◆新たに始めた水田でタガメの幼虫を発見
水田を管理するのは、雨読晴耕村舎代表の後藤さん。タガメの幼虫を見つけた水田は、昨年の冬から新たに管理を始めた土地で、元の状態はヨシとチガヤが生い茂る耕作放棄地だったと話します。
水田を作るため、年明けから井戸を掘り、稲作の肝となる水源を確保。農地の区画整備や水路の工事を行った後、3月には、井戸から湧き出た水を田んぼに張り、準備を終えました。
後藤さんは、稲作の他、水田で粗放的養殖や蓮やレンゲの栽培も行っています。生態系を荒らすアメリカザリガニなどの外来生物の密度を減らすため、田んぼに水を入れてから毎日、置き罠を仕掛けていた所、タガメの幼虫が偶然罠にかかり、今回の発見となりました。見つかった3個体は調査のため、さいたま水族館に寄贈されました。
後日改めて、水生生物や植物などの専門家に調査を依頼した結果、水田内には、タガメ以外にも希少な生物や植物がたくさんいることがわかりました。9月の稲刈りでは、タガメの成虫を何匹も見かけたそうです。

◆自然を取り戻し次世代へ
羽生に移り住み25年以上、不耕起栽培での稲作に取り組んできた後藤さん。稲作講座を毎年開き、都会で暮らす人たちに、稲の生育、水田の生き物、草花と向き合う楽しさを伝えてきました。その長年の活動がネイチャーポジティブな取り組みとして、時代とつながり始めてきたと感じています。
「県北東部では、開発でさまざまな生き物が姿を消したと聞きます。しかし、日々自然と向き合い暮らしていると、昔いた生き物たちが戻ってきていると感じる機会が増えてきました。失われた自然環境を取り戻し次世代につなぐため、活動を継続・発展させていけば、ネイチャーポジティブは加速します。今できることを一歩ずつ進めていきたいです」と話します。

■タガメを取り巻く環境
タガメは水生昆虫の王様とも呼ばれ、誰もが知る田んぼの生き物のひとつです。しかし、開発や乱獲などで数が減少し、現在は売買が禁止されています。県の最新のレッドデータブック動物編2018でも「絶滅危惧種1.A類」に分類され、大変希少な水生昆虫として保護されています。
県内でもタガメの発見報告はいくつかありますが、野生か飼育されていた個体が逃げたものか、判断がつかない状況です。今回の幼虫が自然繁殖したものかどうかはまだ不明ですが、発見された水田の調査に参加してみて、タガメが繁殖して生息し続けられる可能性のある環境であると感じました。
さいたま水族館
飼育課展示係 学芸員 荒井康充(やすみつ)さん

■さいたま水族館「ネイチャーポジティブってなに?展」1月18日(日)まで開催中!!
講演会and飼育員の解説付きツアーを開催!
日時:1月10日(土)13時~
演題:「身近な川の調査からみえることネイチャーポジティブでえられるもの」
講師:カワムラ環境技術事務所 川村敦
申込み:さいたま水族館のホームページにてご確認ください。
※事前予約必要

問合せ:さいたま水族館
【電話】565-1010

■雨読晴耕村舎の水田で見つかった生き物たち
NPO法人雨読晴耕村舎 代表 後藤雅浩(まさひろ)さん
タガメ
モツゴ
フナ
キクモ
ミズカマキリとヤゴ
※希少生物の生息環境を守るため、区域への立ち入りや住処を荒らす行為はご遠慮ください。
※詳細は本紙をご覧ください。

市は生物多様性を保全する取り組みとして、生態系を脅かす外来カミキリムシの防除、地域の自然環境を守るため、市民協働による清掃の協力を呼びかけています。

問合せ:環境課
【電話】内線295