- 発行日 :
- 自治体名 : 埼玉県ふじみ野市
- 広報紙名 : 市報ふじみ野 令和7年11月号
『手作業と噛むことの大切さ』
高橋威博(たけひろ)先生(ファミリーデンタルクリニック)
◆全身への影響
良く噛むことが認知症の予防になり、噛むことが脳機能に深く関係していることは知られてきています。しっかり噛むことで、口の中全体で食物や味を感じて、もぐもぐ顎を動かすことは筋肉や顎全体に伝わった感覚情報が「記憶する機能」の維持に重要な役割を果たすことが明らかになりつつあります。噛むことで脳の様々な部位を刺激し、全身の健康維持にかかせないものとなっています。それは、単に噛むという一つだけの脳への指令ではなく、脳の複数の部位が連動して働いて起きていることが想像できるようになってきました。
◆奥歯で噛む時と前歯で噛む時では脳の異なる部分が活性化する!
奥歯でしっかり噛むと、小脳など運動の命令を送る脳の部位が活性化します。一方、前歯で噛む時は、優しくそっと噛むほど、脳内にある帯状皮質運動野という繊細な力をコントロールする機能(例えば、食べ物の状況に応じて力加減をコントロールし、噛み砕くなどの動き)が強く働きます。
前歯は、繊細な使い方、噛み切る時に使い、奥歯は、いろいろな食材を上手に混合しながら粉砕して、唾液としっかり混ぜ込み味覚を楽しむことができます。食べ物を噛むときには、前歯も奥歯も使いましょう。
◆手作業の奇跡 脳の老化予防だけでない!乳幼児の発育にも大きな貢献
手で物を強く握る時、奥歯で強く噛む時と同じ脳の部分が活性化します。一方、指先でそっと物を摘まんだり握った時は、前歯を繊細に使った時と同じ脳の部分が活性化します。
自分から食べ物を手でつかんで口に運ぶようになる生後9~11カ月ごろ(離乳後期)の赤ちゃんには、この時期にたくさん『手づかみ食べ』をさせてあげることが脳の発育に良い影響を与えます。さまざまな食材を、手で強くつかんだり、優しくつまんだりしながら手の知覚で感じることも大切なのです。また、硬い、柔らかい、大きい、小さい、滑りやすいなどさまざまな食材・調理を上手に口に運び、前歯・奥歯の使い方を理解して食事を楽しむことは、心身の成長を促します。大人では、老化の予防にもなります。
現代社会では手作業の質に変化が見られ、さらには生活の中で力作業や細かい作業が量的にも減っています。手でさまざまな作業をすることは、現代社会が失いつつある大切なことを含んでおり、古くからある生活の中には、不便さの中にも良いことがあるということを考えてみましょう。また、歯の本数と噛み合わせを維持して、欠損した歯を放置せずに噛むことのバランスを保つことが脳の活動を刺激し老化を遅らせます。そのためにも、むし歯や歯周病を予防したり、定期的な歯科受診にて歯やお口の病気を早期発見・早期治療しましょう。
