- 発行日 :
- 自治体名 : 千葉県長南町
- 広報紙名 : 広報ちょうなん 令和7年12月号
今回はもの忘れ外来で最も重要な精神症状に対する評価と対応に関してお話ししましょう。認知症では、軽度認知障害(MCI)からの全経過の中で、約8割のケースで精神症状が合併するという報告もあるほど、精神症状は珍しくありません。不安や抑うつ状態、幻覚・妄想や興奮状態など、認知症で認められる精神症状は多岐にわたります。こうした精神症状が認められたときには、重要な原則があります。それは精神症状をまずは本人からのメッセージとして受け止めるということです。これは他の精神疾患でも共通する原則ですが、特に認知症の人では言葉で表現することが苦手なことも多いので、重要です。
ひとつ例を挙げて考えてみましょう。
◇75歳男性
5年前よりもの忘れが認められるようになり、徐々に進行しています。1年前にアルツハイマー型認知症と診断を受けています。日付や曜日がわからなくなることも多くなり、日常生活でも些細なことで混乱し、怒りっぽくなることもあるそうです。最近は物の置き忘れ、しまい込んで見当たらなくなることも増え、見つからないと「誰かに盗られた」などと訴えることもあるようです。
認知症の人が大切なものを置き忘れたり、しまい場所を忘れてしまったりして、「誰かに盗られた」と訴えることはよくあります。実際には盗られたのではなく、後から意外な場所から見つかったりすることもあります。事実ではないので、これは、『ものとられ妄想』と呼ばれる精神症状になります。こうした精神症状が認められたときには、まず本人からの周囲へのメッセージとして捉え、そのメッセージを本人の立場に立って解釈していくことになります。
もの忘れが進行して、いつもある場所、置いたはずの場所に見当たらないものが多くなり、不安を募らせているのかもしれません。不安から自分を守ってくれるものとして、金銭や通帳などに執着するようになり、誰かに盗られたりしないようにしまい場所を工夫したり、頻回にしまい場所を変えているのかも知れません。しまい場所を工夫したり、しまい場所を頻回に変えたりするとかえって見つかりにくくなり、結果としてさらに不安が募り、被害的な感情が芽生えてきたりする悪循環に陥ってしまいます。
こうした場合に、訴えを否定したり、叱りつけたりするのは逆効果です。本人は、自分なりに工夫して目の前の事態に対応しようとしているのですが、認知機能障害のためにうまく対応ができていないのです。大元の原因は本人の認知機能障害であり、それに伴う不安です。本人の『もの盗られ妄想という精神症状』を周囲へのメッセージとして捉え、それを本人の立場に立って解釈することで、本当の原因に対応していくのです。
勿論こうした対応と並行して、精神症状に対して精神科薬を利用することもできます。精神科薬物療法で重要なのは、精神科薬は原因を治療しているわけではないということです。対症療法に過ぎないので、症状や副作用を見ながら適切に調整する必要があります。
■上野先生を講師に迎えた「認知症学習会」を毎月開催しています。
ぜひご参加ください。
日時:12月17日(水)15時〜16時(要事前申込)
場所:保健センター
問い合わせ(申込先):福祉課 包括支援センター
【電話】46-2116
