- 発行日 :
- 自治体名 : 千葉県長南町
- 広報紙名 : 広報ちょうなん 令和7年8月号
今月号も、うつ病で認められる妄想についてお話ししましょう。
もの忘れ外来には、もの忘れが心配と訴える方がたくさん来院します。多くのケースで様々な程度のうつ病を合併しています。多くは軽度のうつ病ですが、中には重いうつ病を合併している人がいます。こうしたケースでは妄想などの精神症状を生じていることがあり、前頭側頭型認知症などと誤診されることがよくあります。
うつ病で認められる妄想の特徴は、「自分の価値を実際よりも低いと信じ込んでしまっていること」です。専門用語では「微小妄想」と呼ばれています。最も多いのは、前回ご紹介した心気妄想です。こちらは、些細な身体的異常を必要以上に気にして、不安が強まり、実際にはそんなことはないのに、自分が重い病気にかかっていると信じ込んでしまう妄想でした。次に多いのは貧困妄想です。これは実際にはそんなことはないのに、自分にはお金がなくて、明日からの生活にも困ってしまうと信じ込んでしまう妄想です。さらに頻度は少ないですが、罪業妄想が認められることもあります。これは、実際にはそんなことはないのに、自分が取り返しがつかない罪を犯してしまったと信じ込んでしまう妄想です。
こんなケースがありました。
◆70歳女性
夫に先立たれ、娘さん一家と生活されている方です。2年ほど前から、よく眠れないとのことで、かかりつけ医から睡眠導入剤を処方されていました。自分で薬を管理していたのですが、ある晩すでに飲んだのを忘れて、一晩に2錠内服してしまい、朝起きられなかったことがあり、娘さんから叱責されたことがありました。その後、しばらくしてから胃腸の痛み、便通不良、頭痛、だるさ、息苦しさなどを訴えるようになりました。総合病院で全身のCT、消化管内視鏡検査、心電図など詳しい検査を行いましたが、異常は認められませんでした。その後、半年くらいで、食事を拒否するようになったそうです。曰く「お金がないから、食事をするわけにはいかない」。さらに「お金がないから、この服は私のものではない」と洋服を脱いでしまったり、「お金がなくて、支払いが出来ないので、この家は差し押さえられた。ここは私の家ではない」と言って、家からふらふらと出て行ってしまうようになりました。さらに、「私のせいでデパートが爆発してしまいます、申し訳ありません」などと訴えるようになったのです。
うつ病ではまず最初に不眠が認められることがよくあります。さらにうつ病では、原因のはっきりしないさまざまな身体的な訴えが認められることもよくあります。身体的な原因が否定されると、「心気的な傾向」と判断され、心気妄想に発展することがあります。さらに貧困妄想が認められるようになり、お金がないからと食事を拒否したり、自宅から出て徘徊するようになってしまったのでした。その後、罪業妄想も認められるようになりました。このケースでは、外来での診療では改善が難しかったのですが、精神科病院での治療により、ほぼ完全に回復しました。
■上野先生を講師に迎えた「認知症学習会」を毎月開催しています。
ぜひご参加ください。
日時:8月20日(水)15時〜16時(要事前申込)
場所:保健センター
問い合わせ:(申込先)福祉課 包括支援センター
【電話】46-2116