文化 続・ひみ 未来遺産 第38回

■氷見に来遊したコククジラ
〜希少なクジラの証拠写真〜

多数の定置網が敷設されている氷見沖では、時にクジラが混獲されます。鮮魚店に並ぶのは、そうして混獲されたミンククジラが中心ですが、違う種のクジラが水揚げされることもありました。
写真は、昭和30年3月、泊漁港で撮影されたコククジラです。コククジラは北半球に生息する沿岸性のヒゲクジラで、体長は11〜15mほど。写真ではフジツボが付着した特徴的な頭部の様子がよくわかります。コククジラについては昭和45年4月に水揚げされた写真も残り、また近年、昭和10年代前半頃撮影の写真も発見されました。
実はコククジラ、かつては北大西洋にも生息していたものの、すでに絶滅し、現在は北太平洋の東部と西部に少数が生息するのみとなっています。そのうちアジア東部の沿岸に暮らす北太平洋西部の個体群は、オホーツク海から日本列島太平洋側沿岸や日本海の大陸沿岸を回遊ルートとして生活していると考えられてきました。
ところが、氷見で撮影されたコククジラの写真が確認されたことで、日本海の日本列島側沿岸も、利用頻度は少ないとはいえ、回遊ルートとして利用されていることが明らかとなりました。これらの写真は、希少種であるコククジラの生態を考えるうえで重要な証拠となっています。
昭和30年のコククジラは、地元の人々から「つりがね鯨」と呼ばれたと記録に残ります。また、古文書によると、江戸時代の氷見で「釣鐘頭(つりがねがしら)」と俗称される種類のクジラが水揚げされたことがわかっています。コククジラの俗称が江戸時代から昭和まで受け継がれてきたことからみて、氷見の沿岸には定期的にコククジラが来遊していたものと考えられます。
(博物館主査 廣瀬直樹)

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