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- 自治体名 : 福井県鯖江市
- 広報紙名 : 広報さばえ 令和7年8月号 通常版
インドの映画学校に留学中の映像作家 佐々木美佳さん(32)
神明小学校、中央中学校、藤島高校、東京外国語大学卒。初監督作ドキュメンタリー映画「タゴール・ソングス」(2020年)は全国の映画館で公開された。
完成間近の『ブーゲンビリアの夢』は戦争で生き別れた夫婦が手紙でやりとりし、夢の中で再会する物語。
好物はおろしそば。暑さが苦手で、猛暑のインドから一時帰国していた6月20日に取材・撮影した。
《映画で表現、生きる印》
小さい頃から憧れだったインドに留学し、現地で映画づくりのノウハウを学んでいる若き映像作家だ。次回の作品は太平洋戦争がテーマで、まもなく完成を迎える。「言葉だけでは表現しきれない世界があるのが映像の魅力。映画づくりの基礎を磨いて、キャリアを積みたい」
小さい時から散歩が好きで、近所の公園や神社、兜山古墳などをよく歩いた。地元のルーツにも思いをはせるなかで、浄土真宗を開いた親鸞が、かつて鯖江を訪れていることを知った。「実家では年忌法要などでお坊さんを呼んでいたこともあり、仏教が生まれたインドへの興味が一気に沸き上がった」
進学した東京外国語大学では、インドの公用語の一つであるヒンディー語を専攻。同時に、インドが生んだ大詩人も知った。数千にも及ぶとされる詩や歌を残し、アジア人初のノーベル賞(文学賞)にも輝いたラビントラナート・タゴール(1861~1941)である。自然の美しさや深い精神性を映したその作品の数々は、今もなお世界中で多くのファンを魅了してやまない。
折しも、言葉だけでは伝えきれない映像の力に目覚め始めた頃。地方で開かれた映画祭を手伝った縁で映画プロデューサーと知り合ったこともきっかけに2020年、自身初の監督作品を世に放った。タゴールの作品に影響を受けた市井の人々を描く内容で、在学中に撮影し、民間企業に就職しながら編集した。
「もっと映像を追究したい」と2022年、インド国立の映画学校に留学。3年目の現在は学校での課題に取り組む形で、太平洋戦争をテーマにした『ブーゲンビリアの夢』を制作している。戦地に赴いた夫にあてた妻の手紙をまとめた実話本に着想を得た内容である。テーマを決める上では、今年が戦後80年の節目であることや、限られた資源でセットを組めるかどうかを考えた。「ただ、私自身が遠距離恋愛でうまくいっておらず、当時は失意のうちにあった。だから、手紙で心を通わせていた夫婦がまぶしく思えたのかも」
クラウドファンディングで寄せられた寄付を活用し、現地で日本風の家屋を作成。演者は日本人の見た目に近い現地人に頼んだ。現在は編集の最終段階で、15分の短編にまとめた上で日本など各国の映画祭に出品する予定だ。
「世界中の映画祭で上映されたらうれしいし、次への弾みもつく」。キャリアへの思いは貪欲だが、その未来には古里も映る。「私の原体験は福井や鯖江にある。私の経験を生かして、いつかは地元で映画が作れたらと思っています」