文化 ふるさと散歩道

■第370回 文化財編(47) 厄祓い、幸もたらして舞うハレの餅
市東部地域を中心に継承されてきた小正月の予祝(よしゅく)行事「おこない」。氏神への参拝が終わると厄年の男性が主となって、桟敷(さじき)や石垣の上から眼下の人々に向けて餅を撒きます。無病息災や五穀豊穣を祈願する「おこない」は三里山周辺の村などでは「ライシ(オライシ・ホウライシ)」とも呼ばれたことが知られ、旧今立郡のほか西日本各地で類似の行事を見ることができます。
さて、片山町の八幡神社で受け継がれる宮座の記録『神田帳(じんでんちょう)』を紐解くと、明和6年(1769)には「毎年正月九日ニ御神前ニ而てまきちらし祭礼」という記録が見え、すでに餅撒きが行われていたことがわかります。この頃は成人儀礼(烏帽子着(えぼしぎ)・官途成(かんどなり))の祝いとして村人へ餅の振舞いが行われたようですが、大正10年(1921)には「四十二才祝餅蒔寄進米」の文言が現れ、近代以降に厄払いの祝いとしての餅撒きに変化した様子が見受けられます。他方、近世以前には大厄(男性)は初老へと差しかかる年代とされたことから、厄を祓って長寿を祈願するという古くからの風習も全国各地に遺ります。
厳寒の季節、各戸から集められた糯米(もちごめ)は紅白の小餅、大きなおかさ餅、華やかな絵餅に姿を変え、幸福の祈りをはらむ風に乗って勢いよく住民の上に降り注ぎます。
(文化課 藤田彩)

◇平成28年度指定の市指定文化財(2)
おこない(北中山・河和田地区)