くらし 市内の頑張る人・ 輝いている人を紹介しますFace of きくがわ No. 62

障がいとともに、色鮮やかに生きる
松井久悦(ひさよし)さん 松井照子(てるこ)さん

■命と向き合ったときから、物語は始まった
色鮮やかで見る人の心を惹きつける数々の絵。唯一無二の感性で絵を描くのは、市内在住の松井久悦さん。久悦さんと、その活動を支える母・照子さんの人生は、決して平坦なものではありませんでした。
平成10年、松井家の次男として誕生した久悦さんは、生後45日で風邪をきっかけに大病を患い、生死をさまよいます。命は助かったものの、後遺症として知的障がいという特性とともに歩むこととなります。
「自分のせいではないかと、何度も自分を責めました」と当時を振り返る照子さん。それでも、家族や周囲の支えに助けられながら、久悦さんの成長を見守ってきました。また、絵本や紙芝居を自ら制作し、市内外の幼稚園や小学校で読み聞かせを行うなど、障がいへの理解を広げる活動にも力を注ぎました。

■湯気に浮かんだ、最初の一枚
久悦さんと絵の出会いは小学2年生の夏。兄と風呂に入っていたときのことでした。絵描き歌に合わせ、湯気で曇った浴室の壁に描いた一匹の猫。「久くんが絵を描いたよ!」と驚きの声をあげる兄。さらに母に「久くんの絵、ピカソみたいだね」と声をかけました。
その言葉が照子さんの心を動かします。風呂上がりに折込チラシとマジックを渡すと、喉のあたりを黒く塗り潰した猫の絵を書き始めました。実はそのとき、喉に痛みを抱えていた久悦さん。言葉で伝わらない思いを絵で表現していたのでした。
この出来事をきっかけに、久悦さんの創作活動が始まります。「絵は久悦と家族をつなぐ大切な言葉」と照子さんは語ります。

■線と色が紡ぐ、世界への扉
久悦さんの制作スタイルは、今も変わりません。下書きすることなく、黒い油性マジックで線を引き、カラフルな色彩で埋め尽くします。
その表現力に可能性を感じた照子さんは、学校選出のアート展への公募を決意します。平成23年、障がいの有無や年齢に関係なく表現を評価する「ポコラート全国公募展」に初応募し、見事入選。これを皮切りに、数々の美術展で入賞を重ねます。
令和4年には、全国の中学校美術授業で使用される資料にも作品が掲載されるなど、久悦さんの作品は多くの人の目に触れるようになります。

■感謝を描き、未来へつなぐ
「多くの人との出会いや経験によって、絵も少しずつ変化している」と語る照子さん。久悦さんの心の成長を実感しています。
平成23年からは「ひさよしの絵画展」を企画。県内各地で開催され、来場者からは「元気をもらった」「前向きな気持ちになれた」といった声が寄せられています。それはひとえに、絵の中に久悦さんのひたむきさが現れているからでしょう。
「障がいのある人たちが懸命に頑張っている姿を伝えたい」「これまでお世話になった一人ひとりに直接感謝を伝えることは難しいけれど、絵を通じて久悦が歩んできた姿を伝えたい」絵画展には照子さんのこんな思いが込められています。久悦さんは「絵が大好き。これからも描き続けたい!」と笑顔で話します。
家族一丸となって歩む道は、これからも色鮮やかに続いていきます。

■中央公民館では3年ぶりの開催!
ひさよしの絵画展
日時:2月14日(土)〜2月28日(土)
会場:中央公民館ロビー
新作あり、お楽しみ企画ありの展示です!

■松井久悦さん Profile
平成10年1月30日生まれ。草笛共同作業所で軽作業に従事する傍ら、創作活動に取り組む。油性マジックを用い、折込チラシやカレンダーの裏に色鮮やかな絵を描く。作品のモチーフは幼少期から現在までの思い出や日常生活を切り取ったもの。市内だけでなく、県内各地で個展を開催している。美術展などで多数の入賞実績を持ち、今年度は第51回静岡県障害者文化作品展絵画部門で最優秀賞を受賞。