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鉄錆地和製南蛮胴具足(てつさびじわせいなんばんどうぐそく)
鉄黒漆塗切付小札紅糸毛(てつくろうるしぬりきりつけこざねくれないいとけ)
引威二枚胴童具足(びきおどしにまいどうわらべぐ)

西尾市では、6年度に伊文神社に伝来する甲冑2点の調査を実施。その結果、西尾藩主大給松平家から奉納されたものであることが判明
しました。
1つ目の鉄錆地和製南蛮胴具足は、西尾城下の鎮守社として信仰を集めた伊文神社に奉納されたもの。本具足の特徴は、兜鉢(かぶとばち)、面頬(めんぽお)、胴(どう)の前後をそれぞれ1枚の鉄板から作っていることです。この技法を得意としたのが甲冑師の明珍了栄(みょうちんりょうえい)で、この兜鉢の裏側には「了栄」と銘が朱書きされています。
2つ目の鉄黒漆塗切付小札紅糸毛引威二枚胴童具足は、西尾城内の守り神として歴代城主が尊崇した御剱八幡宮(みつるぎはちまんぐう)に奉納されたものです。童具足とは一般的なものより小ぶりな甲冑で、男子が初めて甲冑を着用する「鎧着初(よろいきぞめ)」で使用されたもの。各所に大給松平家の家紋である三河蔦紋(つたもん)があしらわれています。
いずれも、最後の西尾藩主松平乗秩(のりつね)が明治4(1871)年11月17日に奉納したことが伊文神社・御剱八幡宮の宝物目録に記されています。この日は乗秩が東京に引き上げる直前で、西尾県が廃止されて額田県が成立する2日前。城内や城下の神社に家伝の甲冑を奉納することで、旧領地である西尾を守ろうという乗秩の思いがあったのではないかと想像できます。
今回紹介した甲冑は、西尾市資料館で11月30日まで開催の企画展「武士の魂 西尾藩ゆかりの武具」で展示しています。ぜひご覧ください。

岩瀬文庫学芸員
井口 喜景