くらし 特集「こころの不調、声に出していいんです」(1)
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- 発行日 :
- 自治体名 : 福岡県宮若市
- 広報紙名 : 広報みやわか「宮若生活」 No.233 2025年6月号
576万人
それは、日本で精神疾患を有する外来患者数です。
156万人
その中でも多くを占めるのが、気分(感情)障害(躁(そう)うつ病を含む)。
※(厚生労働省「令和5年患者調査」より)
新年度の慌ただしさが少し落ち着いた6月。
けれどこの時期、心と体の不調に悩む人が少しずつ増えてきます。
気づかないうちにたまった疲れや孤独感から、ある日ふと、心のバランスを崩す―。
そんなとき、頼れる場所がそばにあることは、大きな支えになります。
今回の特集では、「相談の大切さ」を伝える人、
「認知症とうつ病の見分け方と早期受診の大切さ」を伝える人にお話を伺いました。
『気づくこと』、『声をかけること』、『話してみること』。
誰かの小さな一歩が、誰かの心を救うきっかけになるかもしれません。
◆うつ病 気づかないうちにこころと体をむしばむもの―
新年度を迎えてしばらく経つこの季節。期待に胸をふくらませた4月とは裏腹に、5月・6月になると心と体に不調を感じる人が増えてきます。気づかないうちに蓄積されたストレスや孤独感によって、ある日突然、心のバランスを崩してしまうことも少なくありません。
そんな人たちのために、『話す居場所』をつくったのが、精神対話士の安永延子さん。奇数月の第三日曜日に『ほっ!と相談』を行っています。安永さんに、心のケアの現場と、その背景にある思いを伺いました。
「よく、五月病といいますが、実は六月病もあるんですよ。五月病は、新年度(入学、就職、異動など)の環境の変化による疲れが、連休明けに反動が来て表面化する現象です。一方、六月病は新生活が始まり二カ月ほどが経過した頃に現れるもので、慢性的なストレスや疲れ、『慣れたはずなのにうまくいかない』という責任感からくる焦りによる心身の不調なんです。
五月病は一時的なものが多いですが、六月病は長引きやすく慢性的なのが特徴で、うつ病になりやすいのも六月病なんです。また、コロナ禍以降は、地域コミュニティの希薄化・社会の閉塞(へいそく)感の中で心に傷を負い、ストレスに押し潰され、うつ病になる人も多いんですよ」。
◇あなたの気づきが誰かを救う
「うつ病は、年々増加傾向にあり、日本人の約十五人に一人が一生のうちに経験すると言われています。人と人が直接出会い、つながることが難しくなった世の中で、私は、こころのケアが必要だと感じ、ほっ!と相談を始めました。
令和3年8月から活動を始め、令和7年3月までに九十八人が、ほっ!と相談を利用してくれました。相談内容は、不登校や引きこもり、職場での悩み、家庭内の不和、孤独や孤立、生きづらさなど多岐にわたります。中には、毎回欠かさず訪れて、『ここで話すのを楽しみにしています』と、笑顔で話してくださる人もいます。また、ほっ!と相談は、対面で話すことを大切にしています。表情や声のトーン、沈黙の間にある思いを感じ取ることができるのは、直接会ってこそのものです。もちろん、電話やチャット相談も有効ですが、『顔を見て話せる』『温度感が伝わる』という安心感は、何より心の支えにもなります。
数ある相談の中でも印象的だったのは、市の広報を見た人が市外に住むご親戚を紹介してくださり、その人が相談に訪れてくれたことです。職場での人間関係に悩み、精神的な疲弊(ひへい)が続くなかで、勇気を振り絞って相談に来てくれました。ただ、緊張している様子でしたので、『今日はいつもより暑いですね』と、別の話から入り、こころをほぐしていくと、数十分後には自分の生い立ちから現在の状況まで、ゆっくりと語ってくれていました。そして、自分の言葉で苦しみを整理し始め、最後には『来てよかった』と、言ってくれたんです。
悩みや不安を打ち明けるのは、弱さではなく、生きる力の表れです。しかし、すべての人がすぐに話せるわけではありません。だからこそ、周囲の気づきも重要になります。『最近、元気がないな』『ちょっと様子が違うかも』と思ったら、まずは声をかけてみてください。その一言が、誰かを救うきっかけになるかもしれません」。
◇自分の心と向き合う時間
「宮若は自然が豊かなので、こころのケア方法として、自然の中で深呼吸をすることを相談者によく提案しています。山々に囲まれたこの土地には、心を癒やす力があると思っています。そして、『深く息を吸い、吐く』それだけでも自分の心と向き合う時間になります。また、絵画や音楽にふれる、軽い運動をするなど、その人の状態に合わせたケアもあります。つらくなったとき、何かにくじけそうになったとき、いつでも気軽に相談ください」。
◇うつ病セルフチェック
・疲れやすく、倦怠感がある
・食欲の低下または過食
・睡眠障害(不眠または過眠)がある
・集中力や注意力が低下している
・体重が著しく減少・増加する
・動作が遅れる、口数が少なくなったり、声が小さくなる
・何事にも興味や関心、喜びを感じにくい
・孤独感や疎外感を感じる
・死について考え、自殺願望を抱く
・周囲のできごとが自分と関係ないように感じる
・何をするにも面倒に感じる
5つ以上当てはまる場合は、うつ病の可能性があります。
※セルフチェックはあくまで補助的な役割であり、うつ病の診断には医療機関での診察が不可欠です。
◇安永 延子(ヤスナガ ノブコ Nobuko Yasunaga)
精神対話士、ひきこもり相談支援士、メンタルケア心理士などの資格をもつ。
ほっ!と相談のほか、市内外で相談員・アドバイザーとしても活動をしている。
ひとりで抱えているつらい気持ちや不安など、一度相談してみませんか。
日時:奇数月第3日曜日、午後1時30分から4時30分まで
場所:若宮コミュニティセンター「ハートフル」
問い合わせ:メンタルケア協会 宮若実行委員会
【電話】090・5736・7226