- 発行日 :
- 自治体名 : 福岡県宮若市
- 広報紙名 : 広報みやわか「宮若生活」 No.238 2025年11月号
◇剣道が教えてくれたこと
「剣道を始めたきっかけ?きょうだいが剣道をやっていたんですけど、きょうだいがやっていたからというよりは、剣道具を買いにお店について行った時に、道着がかわいいなって思って、物に釣られて始めたのがきっかけですね」と、少し笑いながら話す海月さん。続いて都己香さんも剣道を始めたきっかけについて、こう話してくれました。「私もきょうだいがやっていたので、それがきっかけです。気づいたら一緒にやっていました」。
きっかけは自然なものでしたが、剣道は都己香さんに大きな変化を与えました。
「剣道を始める前の私は人見知りだったんですよ。ただ、試合後に相手選手に話しかけられたり、話したりしているうちに、人見知りをしなくなりました。『礼に始まり礼に終わる』と言われる、礼儀を重んじる剣道のおかげで、今の私がいると思います」。剣道を通して成長した自分を振り返りながら語る都己香さん。全国大会での思い出も振り返ります。
「全国の舞台に立つのが夢だったので、『早く試合がしたい』『いろんな人と戦いたい』って、ずっとワクワクしていましたね。誰よりも練習を頑張ってつかみ取ったレギュラーですから、楽しまないともったいないと思っていました。
全国大会で特に印象に残っているのは、決勝戦前に顧問から『お前たちならできる。勝てるよ』と、声をかけられた時です。その瞬間、入学当初に顧問から言われた『一学年に五人もいることはそうそうない。一生懸命やれば日本一になれるぞ』という言葉を思い出しました。その言葉が背中を押してくれて、『日本一になるんだ』という強い気持ちで試合に臨むことができ、無事に勝利をつかむことができました」。
そして、全国の舞台で強く心に残る場面があったのは、海月さんも同じでした。
「全国大会の女子団体は四十八校が出場し、三校で行われる予選リーグを勝ち上がった各一校が決勝トーナメントに進めるんですよ。対戦相手はくじ引きで決まるんですけど、二年前に全国大会で優勝した佐賀大和中学校との対戦になってしまったんです。去年の新人大会では、四-〇で負けていて、最初はチーム内がざわついていましたね。ただ、『私たちが日本一』と思って気持ちを作ったことで、最終的にはチームとして勝つことができました」。その後順調に勝ち進み、迎えた決勝戦。相手は全国大会常連の神奈川県の潮田(うしおだ)中学校。二勝二敗一引き分けとなり、勝敗は五試合のうち一本の数が多い方が勝ちとなる総本数へ。結果は二本差で負け。惜しくも全国優勝には一歩届きませんでした。そしてその当時を振り返って、海月さんはこう話してくれました。
「先鋒戦で最初に一本を取ったのは私でした。しかし、相手に一本取り返され引き分けになりました。私が一本取られなかったら全国優勝できていたと考えると、悔しい気持ちでいっぱいでした。ただ、大会終了後に顧問から『この世代は全国のどこの中学校よりも一番多く試合をした。よくやった』と言われ、救われた気持ちになりました」。悔しいのは都己香さんも同様で、「この悔しさをバネに、高校生になったらインターハイで絶対に優勝する」と、誓っていました。
◇次の舞台へ、それぞれの道
約十年間、剣道とともに歩んできた二人。全国大会準優勝という大きな成果の裏には、数え切れない練習や試合で味わった悔しさ、そして喜びが積み重なっています。その原動力について尋ねると、最初に口を開いたのは海月さんでした。
「きょうだいの夢でもあった全国大会だったので、代わりに私がやるんだ。その思いがずっと私を支えてくれていました。そして、都己香や剣道部のみんな、家族、顧問の先生など、たくさんの人がそばにいてくれたからこそ、ここまで続けることができたんだと思います」。その言葉には、これまでの努力と感謝がにじみます。
続けて都己香さんが少し照れくさそうに語ります。「私がここまで剣道を続けられたのは、勝った時に家族やチームのみんなが本気で喜んでくれるのがうれしかったからです。個人で戦う緊張感も好きなんですが、団体戦のように仲間と力を合わせて勝つ喜びも好きで。そういう剣道の奥深さが、私をここまで引きつけたんだと思います」。
全国大会という大きな舞台を経験した二人。仲間と過ごした時間の尊さ、支えてくれた人たちへの感謝、そして努力が報われる瞬間の喜び。それら全てが、これからの人生や剣道との向き合い方の大きな糧になっていくはずです。
◇別れじゃない、次の挑戦の始まり
取材途中に、引退後の生活について話が及ぶと、二人の表情がふっと和らぎました。
「高校はおそらく別々になると思います。もしそうなれば、次はライバルとして競い合っていきたいですね」と、少し寂しそうに、しかしながらどこかうれしそうにも話す都己香さん。隣で海月さんも「そうなったら負けられませんね」と笑顔で応え、二人の間にはこれまで積み重ねてきた時間の深さが漂います。
中学三年間、ともに竹刀を交え、互いを支え合いながら歩んできた日々。「一緒に頑張ってきた時間があったからこそ、どんな試合でも最後まであきらめずにいられたと思います」と、都己香さんは言います。
笑い合いながらも、その言葉の裏には、幾度となく流した涙や努力の積み重ねが感じられました。
将来の夢について尋ねると、都己香さんは少し考えてから、静かに語り始めました。「私はまだ将来の夢は、はっきりしていないんですけど、とにかく高校でも大学でも剣道を続けていきたいとは思っています。そして剣道を続けていくからには、最終的に指導者として剣道に携われたらいいなと思っています」。その瞳には、これからも剣道を通して多くを学び、成長していきたいという強い意志が宿っていました。
一方の海月さんは、しっかりと前を見据えます。「私は将来の夢はもう決まっていて、スポーツトレーナーになりたいと思っています。小さいころからケガが多くて、試合に出られない日々もありました。そんな時、支えてくれたのがトレーナーの先生だったんです。あの時の支えがあったから今の私がある。だから今度は私が誰かを支える番だと思っています」。
そう語る表情には、目標へと向かうまっすぐな強さがありました。「だから、剣道は高校までかなと思っています。大学では、剣道以外のいろんなスポーツに関わって、もっと多くの人の力になりたいです」と続けます。
性格も考え方も対照的な二人。お互いの良さを認め、時に励まし合い、時にぶつかりながらも高め合ってきた時間が、二人の絆をより深く強いものにしました。
剣道を通して培った強さと優しさを胸に、それぞれの道でまた新たな一歩を踏み出していく二人。その背中は、これから出会う誰かの『憧れ』となっていくことでしょう。
◇今度は私が誰かを支える番だと思っています。
Mizuki Sakai
平成23年1月5日生まれ。宮田北小学校出身。飯塚日新館中学校3年生。
全国大会では先鋒(せんぽう)としてチームに勢いをつける。5人兄弟の末っ子で好きな食べ物はお母さんが作るからあげ。
◇最終的に指導者として剣道に携わりたい。
Tsukika Nawata
平成22年4月10日生まれ。宮若西小学校出身。飯塚日新館中学校3年生。
全国大会では副将としてチームをけん引。5人兄弟の4番目で好きな食べ物は白米とオムライス。
