- 発行日 :
- 自治体名 : 佐賀県多久市
- 広報紙名 : 市報たく 令和7年10月号
■「心を寄せる秋」
図書館で本を選ぶとき、私は表紙や背表紙の雰囲気にひかれて手に取ることがよくあります。ぱらぱらとめくってみると、思いもよらない物語や深い学びに出会えることもあり、借りた本はどれも新しい発見をもたらしてくれます。本の世界に触れることは、知らなかった誰かの人生を少しだけ歩かせてもらうような体験です。人との出会いも、本との出会いにどこか似ています。外から見える印象だけで「こんな人だろう」と決めつけてしまうことがありますが、少し言葉を交わすと、思いがけない優しさや強さにふれることもあります。そのとき、私の心の中にあった先入観が、静かにほどけていくのを感じます。
人権とは、一人ひとりが自分らしく生きている「物語」を大切にし合うことだと思います。誰もがその人にしか歩めない、その人だけの道を進んでいます。その道のりには、喜びもあれば、悩みや葛藤もあります。けれども、その一つ一つが、その人の物語を刻む足跡なのです。私たちは、相手の姿を外から見て想像するだけでは、すべてを知ることはできません。だからこそ、耳を傾けようとする気持ちや、相手を受け止めようとする心が必要なのだと思います。
一冊の本が心を耕してくれるように、人との出会いもまた私たちを豊かにしてくれます。この秋、心に残る一冊と、誰かの物語に出会ってみませんか。
社会教育指導員 野中久美子(のなかくみこ)