文化 《特集2》鍋島、開窯350 年 〜誇りを未来へつなぐ、新たな物語の幕開け〜

鍋島焼(なべしまやき)は、時を超えて受け継がれてきた美と技の結晶です。
今年は、伊万里に藩窯が開かれてから350年という長い歴史の節目を迎えました。
この記念すべき一年は、鍋島焼の魅力を改めて見つめ直し、未来へとつなげていくための、さまざまな取り組みが進められています。ここでは、鍋島焼の歩みや350周年の記念事業などを紹介します。

◆完璧なる美の追求鍋島焼の誕生
三方を山に囲まれた伊万里・大川内山(おおかわちやま)は、江戸時代に佐賀藩が将軍家や大名家への献上品を焼くために築いた『鍋島藩窯(なべしまはんよう)』の地です。
藩は、威信や命運をかけて磁器作りの最高技術を追い求めました。そのために、この地には、選び抜かれた31人の陶工たちが集められ、陶工たちは、技術などが漏れないよう、外部との往来を厳しく制限されるなどの環境の中で、当時、わずかな歪(ゆが)みも許されなかったとされる焼き物づくりに人生を捧げました。
市場に出ない『献上専用の焼き物』として生まれた鍋島焼は、費用や手間を惜しむことなく、欠点のある作品は容赦なく砕か
れたと伝えられていて、この妥協のない姿勢が、鍋島焼を『日本最高峰の磁器』と呼ばれる存在へと導きました。

◆今に息づく遺産現代の大川内山
治維新によって藩窯の時代が終わった後も、大川内山では陶工たちが民窯として再び立ち上がり、技術と精神を守り続けてきました。
現在は、29の窯元が活動していて、大川内山を歩くと、煉瓦(れんが)造りの煙突や、ろくろを回す音、絵付けの筆を走らせる音など、美しい景観やこの地に息づくものづくりの誇りを感じることができます。
2025年は、伊万里に藩窯が開かれて350周年の節目の年にあたり、伊万里鍋島焼協同組合では『鍋島焼文化』を未来へつなぐ取り組みを進めています。
具体的には、ブランドを象徴する新しいロゴの制作をはじめ、次世代につなぐための産地ブランディング戦略の策定や、年間イベントのブラッシュアップ、大川内山の年間を通した街並みや各種行事、作陶の様子などを記録するデジタルアーカイブの制作、プロモーション動画や記念ポスター、記念リーフレットの制作を行い、ウェブやインスタグラムなどで積極的な情報発信を展開しています。
加えて、5月27日に行った『鍋島焼献上の儀(※)』では、首相官邸において石破前首相へ瓶子(へいし)を献上し、各種メディアを通して、鍋島焼と開窯350年を大いにPRしました。
今後も鍋島焼文化の魅力を日本中、そして世界へ広げていくことを目指していきます。

◆祝祭の年350周年記念事業
令和7年は鍋島焼にとって過去を振り返るだけでなく、次の時代を見据える新たな出発の年です。
春の『鍋島藩窯窯元市』は、美しい器とともに地元の食文化を楽しめる空間が広がりました。夏の『鍋島藩窯風鈴市』は、約3000個の風鈴が涼やかな音を響かせ、秋の『鍋島藩窯秋祭り』は、紅葉を楽しんでもらうとともに、伝統儀式を継承
しつつ『鍋島焼文化未来への継承』をテーマとしたシンポジウムを実施します。
これらの催しは、地域の人たちが支えてきた鍋島焼の魅力を再発見し、その誇りを次の世代へと受け継ぐための大切な機会です。
季節を彩る鍋島焼の地・大川内山に、ぜひ足を運んでみてください。

(※)江戸時代に佐賀藩の御用窯が本市の大川内山に置かれ、そこで制作された献上品を将軍家や諸大名に贈って
いたという史実にならう儀式で、平成元年度から全国の名城のある自治体などへ瓶子を献上しています。

◆令和7年の取り組み抜粋イベント関係
▽春…鍋島藩窯窯元市4月29日〜5月5日
大川内山の自然に囲まれた里山で、29の窯元による美しい鍋島焼や県内外の飲食店が集う春の市。里山の景色とともに陶器と食が楽しめます。

▽夏…鍋島藩窯風鈴市/あかり夏祭り6月14日〜8月24日
個性豊かな29の窯元が作る約3,000個の風鈴が大川内山に涼やかな音色を響かせる夏のイベント。最終日前日には『あかり夏祭り』が開催され、山間の風景と夜空に、伝統道具『ボシ』を使った幻想的なあかりが、訪れる人たちを魅了します。

▽秋…鍋島藩窯秋祭り11月1日(土)〜11月5日(水)
紅葉に包まれた大川内山で、鍋島焼の歴史と技術を体験できる秋の祭り。伝統工芸に触れながら、秋景色とともに鍋島焼の美しさが堪能できます。

▽冬…イマリ・キャンドル・クリスマス12月20日(土)・21日(日)
伝統の町並みにキャンドルが灯るクリスマスイベント。巨大えんとつキャンドルやクリスマスマーケット、ワークショップ、音楽ライブなどが楽しめます。

▽INTERVIEWインタビュー
「鍋島焼文化を守り続ける」
伊万里鍋島焼協同組合実行委員長川副隆彦さん
鍋島焼は、江戸時代に将軍家や天皇に献上された『日本磁器の最高峰』として発展してきました。その誇り高き文化を次の50年、100年へと継承するために、私たちは350周年という節目の年に記念事業に取り組んでいます。事業では、先人が築いた『鍋島焼文化』を現代に再解釈し、地域全体で文化と経済を両立させることを目指しています。
大川内山の静かな景観や、そこに関わる人たちの営みこそが鍋島焼文化の土台であり、その価値を改めて見つめ直す機会にしたいと考えています。
50年後、100年後の後継者たちが「この産地を継ぎたい、継いでよかった」と胸を張って言えるように、私たちの責任は、未来の世代へ『誇れる産地』を引き継ぎ、創り上げていくことです。
鍋島焼は、単なる器ではなく、意味のある文化そのものです。私たちは、これからも「鍋島焼文化を守り続ける―次の百年へ、誇りと共に。」という想いで歩み続けます。

問合先:企業誘致・商工振興課商工振興係
【電話】23-2184