- 発行日 :
- 自治体名 : 大分県由布市
- 広報紙名 : 市報ゆふ 2025年10月号 vol.241
今回は前回紹介した鬼崎の磨崖仏と舞台が近く、関連があるかもしれない、挾間町田ノ小野地区に伝わるちょっとこわい昔話をご紹介します。
〜悲鳴のきこえる「ずうめき谷」〜
挾間町田ノ小野から野津原舟平を通る道は、今では農免道路ちゅうてそりゃ立派な道ができちょるが、昔は人家もなく、谷を渡っていくにてえへん薄暗く、淋しい所じゃったとお年寄りは話ちょる。そん谷のこと、村ん人たちは、「ずうめき谷」と呼んでいるんじゃが、どげして名付けたかちゅうと、面白い話がある。
昔、いつんことか、わからん時んことじゃ、一人のえろうべっぴんの女がのお、お供もなく独りで、夜野津原に向けち歩いていたそうな。丁度谷を渡ろうとしたとき、どこからとなく追い剥ぎが飛び出しちきい、その女の人を襲おうたそうな。
「誰か助けてえー」「助けてえー」と大けん声で必死に叫んだが、昼でん暗くて、人通りもねえ道じゃ、誰一人として助けに、きちいくる人もなくそん女の人は、金も、命も、追い剥ぎからとられちしもうたという。
それからというもんは、こん谷を通る人たちは、殺された女の幽霊を見たというち、ほうほうのていで、逃げ帰ったんだと。
こん谷を流れちょる水の音が、周りの薄くらい林にこだましち、丁度女ん人が「助けてえ」「殺さんでえ」と泣き叫ぶ声のように聞こえちくることから、村ん衆は、いつとはなしに「ずうめき谷」というようになったという。
あまり毎晩幽霊が出るため、野津原に行くたった一つの道じゃけん、人々は弱りきってしもうた。村ん衆は、女ん人が、成仏しちょらんのじゃろう供養しちやろうではねえかと、村んお坊さんに、お経をあげ供養しちもらい、又、殺された女ん人の恨みが消えるように「ずうめき谷」の岩に、絵を彫りこんだということじゃ、それからというもんは、夜道を通っても、女ん人の幽霊は出んようになったという。立派な道が出来た今でん「ずうめき谷」を通るとのお、谷ん下んほうから「ドウドウ」という、轟の音が耳に聞こえちくる。
(「挾間町誌」より抜粋)
鬼崎の摩崖仏が彫られている場所の上流がちょうど「ずうめき谷」と呼ばれていたらしく、この昔話に関連があるように感じられる部分がありますが、今となっては不明です。
なお、昔話は当時の表現のまま掲載しております。
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