- 発行日 :
- 自治体名 : 鹿児島県出水市
- 広報紙名 : 広報いずみ 11月号(2025年11月1日発行)
朝晩の心地良い風を、肌で感じる11月・秋。数ある「〇〇の秋」の中から、去年に引き続き、『読書の秋』を特集します。今年はジャンルを限定しています。ズバリ、『出水の歴史』。“歴史”という言葉を聞くと、見知らぬ土地で起きた過去の出来事や物語に、身構えてしまう方も多いかもしれませんが、今回ご紹介する歴史は、あなたが住んでいるまちが舞台です。歴史を知ったとしても、あなたの生活に大きな変化は起きないかもしれません。しかし、歴史を知ることでふとした時に感じる歴史の味があります。
■歴史を学ぶススメ Autumn
歴史を学んでも学ばなくてもあなたの人生は進んでいくでしょう。ではなぜ歴史を学ぶのか。歴史は私たちにどのような影響を与えてくれるのか。出水歴史民俗資料館に務められ、長年出水の歴史を研究している肱岡隆夫さんに話をお伺いしました。なぜ出水の歴史を学んでいるのですか?
◇生活に味が出る
出水史談会
肱岡 隆夫氏
祖父が出水町郷土誌の編纂に関わっていたと知ってから私の出水の歴史研究が始まりました。私は、当初からある疑問をもちながら歴史と向き合ってきました。「私たちはどこからやってきて、どうやって今があるのか」。この答えを見つけるために、生まれ育った出水の歴史を学び続けています。出水の歴史を学びを進める中で、新たに見えてきたものが二つあります。
一つ目は、出水の特異性です。歴史を振り返ると、出水の人達は他の地域と一線を画す考えや行動をしています。しかもそれが長い歴史の中で随所に見られます。出水は「薩摩ではない薩摩」と呼べる特異的な地です。二つ目は、生活に味が出てくることです。特に大人の方は、歴史を知ることでその効果を感じられるでしょう。歴史を学んでいると、自分の人生につながるものが必ず出てきます。小さい頃遊んでいた川も、何気なく見ている田園風景も、成り立ちや背景を知った上で生活すると、それぞれが密接につながり始めます。自分の人生が、遠くに感じていた歴史と先人とつながる体験をぜひ味わってほしいです。
子どもたちに地元の歴史を知ってほしいという想いもありますが、私は大人の皆さんに出水の歴史を味わってほしいです。そして、あなたが体験して感じた想いも含めて、歴史を子どもに伝えてください。出水というまちは、あなたが思っている以上に面白い歴史で溢れています。
■出水独自の歴史と感性を知る
身近な出水の歴史
◇其の一 薩摩ではない薩摩
奈良時代(8世紀頃)の資料に、出水の行政に当たっていた役人に「肥君」という名が残っています。この名から、当時の出水は肥後(熊本)の勢力下にあったと考えられています。当時はクレインパークいずみがある文化町の河岸で人々が生活し栄えていたことが遺物からわかっており、肥後の人たちも海を渡り、米ノ津川から入ってきたのかもしれません。ちなみに、昔も今も人々の生活を支えているそんな「米ノ津川」には、かつて別の名がついていました。「出水川」です。江戸時代に描かれた「三国名勝図会」にその名が残されており、当時活躍した米ノ津出身の力士『出水川定右衛門』の四股名にも使われています。
◇其の二 雨はラッキー
大切なお出かけの日に、雨が降ってきたら、あなたはどのように思いますか?「ついてないな」と感じるのが一般的でしょう。しかし、同じ鹿児島の中でも鹿児島市内の人たちは雨が降ることに正反対の考えをもっています。かつて、薩摩藩を治めていた島津の初代殿様が雨の日に生まれたことから、「島津雨」という言葉が誕生し、雨が降ることは良いことが起こる前兆だと伝えられてきました。しかし、同じ薩摩藩でも出水の方ではそのように考える人は少ないようで、出水で島津雨と言っている方はほとんど見かけません。「嫌なものは嫌だ」という考えだったのでしょうか。
◇其の三 頑固さ冷静さとを併せもつ
薩摩北辺の守りの要であった野間の関は、薩摩三大関所のひとつと呼ばれ、その取締りの厳しさは全国に知られていました。時代が進むに連れて各藩は警備を緩めていきましたが、野間の関は厳しさを維持。私たちの先祖は、200年以上信念を曲げずにその任を全うしました。しかし一方では、全く違う一面も垣間見えます。明治時代、政府による廃刀令等に反発した武士たちによる西南戦争が勃発し、出水からも多くの武士が参加しました。しかし、出水のある武士は、「この戦はもう決着が着いている。無駄な血を流す必要はない」と状況を冷静に判断し、周囲へ呼びかけ、政府軍が出水に攻めて来ても戦う選択肢を選びませんでした。
◇其の四 今と昔で異なる『出水麓』
あなたは『出水麓』と聞くとどの場所をイメージされますか?多くの方は、出水麓武家屋敷群を思い浮かべるでしょう。しかし、あなたが思い浮かべた場所は、出水麓の通称“高屋敷地区”と呼ばれる場所であり、それは当時の出水麓の一部の地区です。当時の人達は『出水麓』と聞くと、頭に浮かぶのは東は大川内下平野地域から米ノ津川右岸の「太田地区」、対岸の「向江地区」、北は箱崎八幡神社にかけての「西出水地区」、南は紫尾山麓までという広い範囲を思い浮かべます。では、なぜ“高屋敷地区”が出水麓のすべてであるように見なされるようになったのか。当時の武士たちにとって「城あっての武士」といっても過言ではないほど、「城」は特別な存在でした。「城」がなくなり、「麓」に拠点が移っても、武士たちは「城」の存在を必要としました。高屋敷地区は出水麓の中でも、河川による『塀』、シラス台地の崖による『石垣』、現在の出水小学校の場所にあった『館』という城の三要素が揃うことから、「近世の城」のように地域住民から理解されるようになり、高屋敷地区だけが広い出水麓の中で特別な場所であると見なされるようになったと推測されています。
◇年に一度の学び場~歴史講座「出水歴史研究の歩み」~
10月18日、知識人が出水の歴史を語る、歴史講座が中央図書館で開催されました。肱岡さんは、長年この講座の講師を務めており、今回も数十年に及ぶ調査・研究から得られた、ここでしか聞けない出水の面白いマニアックな歴史話を20名を超える参加者に伝えていました。
◇歴史講座参加者
私の実家は武家屋敷群の中にあり、これまで40年近く歴史的価値があると言われる地区に住んできました。しかし、私自身、武家屋敷群のことも、出水の歴史も全く学んできませんでした。70歳の節目を迎え、自分の人生を振り返った時、生まれ育ったこの場所の歴史を知りたくなり、10年前から歴史講座に参加しています。これまでに、私の母が仲の良かった税所家の方々の話や、小さい時遊んでいた広瀬川の歴史、私の住んでいる場所がどれだけ価値のある地区なのかを知ることができました。受講する度に私の人生と歴史がつながるので、ワクワクします。先人や歴史とつながりをもつ楽しさに出会えて幸せです。
■難易度別 出水の歴史本
出水の歴史を知るには本から学ぶのが一番。少しずつ全貌が見えてくる出水の歴史の奥深さと魅力をご堪能ください。
◇初級編
New いずるさんとまなさんのいずみ大冒険!~まんがで学ぶ出水の歴史~
肱岡隆夫さんも監修
「出水城跡」「五万石溝」「出水干拓」を探索しながら出水の歴史を紹介する漫画本。今年8月に発行され、市立図書館だけでなく、ネット上でも読むことができます。出水の歴史を知る新たな資料は、子どもだけでなく大人の方もお楽しみいただけます。肱岡さんの出水への想いが込められた1冊です。
◇中級編
出水の昔ばなし
私たちの祖先がそれぞれの地域の歴史や風土に根ざしながら語り継いできた民話を1冊に凝縮。あなたの住んでいる地域が話の舞台かもしれません。
◇上級編
郷土誌[出水・高尾野町・野田町]
まちの歴史を探究する上で欠かせない資料。旧石器時代から現代までの歩みを時代に沿って紹介。全てを読み終えた時、あなたの新たな人生が始まる。
市立図書館には、今回ご紹介した本のほかにも、出水の歴史を多方面から知ることができる本が数多く揃っています。読書の秋、あなたの人生に一味加えてくれる素敵な歴史本との出会いをお楽しみください。
出水市立図書館・出水歴史民俗資料館
岩元航太さん/岩元みなみさん
◇自由な世界
歴史は、私たちにその奥深い味を提供し、毎日の生活に「過去とつながる楽しみ」を味付けしてくれます。新たな発見や様々な解釈で変わり続ける歴史。正解のない、自由な世界であなただけの楽しみを見つけてみませんか。
