■有機農業を始めやすい名張。覚悟とやる気は必須です
福廣農園 福廣博敏さん
▽PROFILE
三重県農業経営大学校(現三重県農業大学校)卒業。20代後半で名張市へUターンしてトマト栽培を始め、約30年前に有機栽培に転換。現在は薦生地区で、ほうれん草などの葉物野菜を中心に、15品目を栽培。
◇データ管理に基づいた農業で安定した収穫を
有機農業で生計を立てていくのは、ハードルが高いのも事実。化学肥料を使わないため、通常の農業よりも収穫量は少なくなるのが一般的ですが、「収穫量が半分だから倍の値段で買ってください」は通用しません。3割高ぐらいが相場です。技術力を上げ、収穫量を増やしていくことで、初めて生活が成り立っていくのが有機農業なんです。
私が、有機栽培に転換して10年程経った頃、「データ管理に基づく農業」を開始。安定的に収穫量を確保するために、土を分析して不足成分を補ったり、うまみ成分に直結するアミノ酸の比率が高い肥料を作ったりと、分析したデータを基に栽培する手法です。畑を取り巻く状況は日々変わっていくので、これからも研究が欠かせません。
◇農業で生活するには覚悟とやる気が必須
新しく農業を始める人が経験と勘を併せ持つベテランの人に追いつくのは難しい。その点、データを基に技術力を上げていけば、早いうちにある程度の収穫量を得られるようになると思います。
ただし、経営難などを理由に農業をやめていく人も大勢います。「農業を始めたい」という人には、こうした現状をお話しし、農業で生計を立てる覚悟を聞きます。「農業を甘く考えているなら最初からやめておけ」ということですよね。それでも「農業をやりたい」という覚悟とやる気があるなら、いろいろと相談にのったりしています。
◇各地域の指導者に助言をもらうのが成功のカギ
名張は山間地や田園地帯など、それぞれの地域で農業に特色があります。だから、農業を始めようという人は、その地域の指導者に出会って適切なアドバイスをもらうことが成功のカギ。また、農産物を生産するばかりでなく、地域との関係を深めていくことができれば、経営もうまくいくと思います。
名張には、有機農業を教えられる指導者があちこちにいて、農業を始める土地もある。宣言を機に、農業を始めようという人が名張に集まり、有機農業が活性化していくといいですね。
■生産者同士がつながれば、多様な農産物を提供できる
む〜む〜まるしぇ 伊藤英次(えいじ)さん
▽PROFILE
青汁の原料「ケール」を有機栽培する父と共に名張市へ移住。高校卒業後は大阪で働いていたが、約30年前に名張へ戻り農業を手伝い始める。赤目地域でケールやさつまいも、人参、トマトなどを栽培。秋にはさつまいも掘り体験も行っている。
◇自分がおいしいと思える野菜だけを届ける
「消費者においしい野菜を届ける」が私のモットー。そのためには、手間暇を惜しみません。例えば、土を覆うなどして、雑草が生えないようにすると、土の生産力が弱まってしまいます。だから、野菜の周りの雑草は一つ一つ手作業で抜いています。また、できた野菜は必ず味見。「これはおいしい」と、胸を張って皆さんにお届けできるものを選りすぐって出荷しています。
9月中旬から10月末まで実施している、さつまいも掘り体験も好評で、毎年たくさんの親子連れなどにお越しいただいています。「楽しい」「おいしい」と言ってくれる人の顔を直接見られるので、とてもやりがいを感じますよね。
◇農地のことは地元の人に聞くのが一番
気候や土のことなど、場所によって農地の特徴が異なります。そのため、新たに農業を始めようとする場所の近辺の生産者に教えてもらうのが一番の近道。多様な農法を実践する人と情報交換するのもいいですね。
その地域に昔から住んでいる人の話も役に立つことが多いです。例えば、赤目口駅周辺の土地について聞くと、「全て桑畑だった」そう。長い間、畑だった土地は、肥沃で農業に向いている可能性が高いですよね。
◇伊賀地域の有機農業者と紹介し合える関係になれば
私は、地元のマルシェで焼き芋などの販売もしています。生産者や消費者と出会える貴重な場であり、情報交換や新たな販路獲得にもつながっています。ただ、商店や飲食店などは多様な野菜をまとめて買いたいというニーズがあります。だから、有機農業者がグループを作り、多品種の農産物を販売していくことも大切だと考えています。
宣言を機に、伊賀地域の有機農業者と、もっとつながっていきたいですね。「こんなものが欲しい」と言われたとき、「うちにはないけどAさんが作っているよ」と紹介し合える関係を築ければ、より多くの消費者に喜んでもらえるはずです。
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