■南湖築造の理念と目的
南湖は、享和元年(1801)に白河藩主・松平定信(まつだいらさだのぶ)により築造されました。江戸時代に大名が造った庭園は、城内や大名屋敷内にあり、通常、庶民は立ち入ることができませんでした。しかし、南湖は、身分を問わず誰もが楽しめる「士民共楽(しみんきょうらく)」の理念により囲いや塀を設けず、いつでも誰でも訪れることができました。
南湖築造には、困窮した領民の雇用の創出や新田への農業用水の供給、藩士の水泳や操船の訓練での使用など、さまざまな目的がありました。江戸時代の様子は『奥州(おうしゅう)白河南湖真景図』に見ることができます。
■南湖公園開設そして国の史跡名勝へ
明治時代になると、日本に公園制度が発足し、南湖は明治13年(1880)に「南湖公園」となりました。
大正13年(1924)12月、定信の南湖築造の理念や、優れた景勝地であることが評価され、南湖公園は国の史跡名勝に指定されました。今年はそれから100年の節目の年にあたります。
■南湖と鉄道
大正5年(1916)に白河と棚倉を結ぶ白棚(はくほう)鉄道が開業しました。南湖公園のすぐ南側に線路が敷かれ、南湖駅が開設されました。昭和19年(1944)には、軍需優先のため運休となり、レールなどは撤去されました。
■南湖の保存と活用
築造から約220年、南湖公園は、いつでも誰でも楽しむことのできる場所として、今も多くの人々に親しまれています。
その環境や景観を保存していくため、松くい虫航空防除や池干し、水草駆除、外来生物の調査のほか、園路整備、道路の一部通行止め、ハンプ(減速を促す路面の突起)の設置など、さまざまな取り組みを行っています。また、南湖を会場としたイベントを開催するなど、その魅力を発信しています。
■次世代につなぐ
令和5年10月、都市計画課内に南湖係を新設しました。南湖を次世代につないでいくため、これまでの取り組みに加え、南湖の将来像を示す基本構想の策定や、人と車の安全な往来を確保するための社会実験、新たなイベントの開催などを実施していきます。
■南湖公園に出かけよう
南湖は周囲約2km、飲食店もあり、気軽に散歩やジョギングが楽しめます。また、季節や時間帯により、さまざまな風景や自然の姿が見られます。翠楽苑(すいらくえん)では、友好都市の埼玉県行田(ぎょうだ)市から贈られた古代蓮が7月に見頃を迎え、早朝無料開園が行われます(詳しくは20ページ)。この機会に南湖公園に出かけてみませんか?
■南湖公園と渋沢栄一(しぶさわえいいち)
7月3日(水)に発行される新一万円札には「近代日本経済の父」と呼ばれる渋沢栄一の肖像が描かれていますが、南湖公園とも深い縁があります。
松平定信をまつる神社を創建するため「楽翁公奉祀表徳会(らくおうこうほうしひょうとくかい)」が結成されると、定信を敬愛する渋沢は、多額の寄附を行ったほか、財界の有力者に寄附を働きかけるなど南湖神社創建に尽力しました。また、南湖神社標柱の揮毫(きごう)も行っています。
■南湖への想いを伺いました
水月(すいげつ)
竹内由美子(たけうちゆみこ)さん
南湖では、昭和30年代から40年代頃まで5月にボートレース大会と子どもの釣り大会、8月に花火大会と灯籠流しを行っていました。冬には厚い氷が張り、スケートができました。
翠楽苑の場所には、南湖球場があり、会社の運動会、消防の検閲、小中学校の遠足や写生会などが行われていました。また、大学の野球部が合宿を行っていました。南湖は、子どもから大人までたくさんの人々が集まる場所でした。
コロナ禍では、お客さんは減ってしまいましたが、意外にボートの利用は増えました。家族だけで乗れるというのが理由でした。南湖が、家族の絆を深める一助になっているんだなと感じました。
子どものとき家族と南湖に来て、団子を食べたり、ボートに乗ったりしたことが懐かしくて、今度は、自分が大人になり、子どもを連れて来たという方も多いです。
時代とともに変わることは大切ですが、南湖の魅力は、憩いの場として変わらないところかなと思います。いろいろな方が気兼ねなく来られて、来た方の思い出に残る場所であり続けて欲しいですね。
■写真で見る南湖の歴史
▽南湖、あの頃と今
大正から昭和初期の絵はがきの写真と現在の様子を比較しました。
※詳しくは、本紙をご覧ください。
「しらかわデジタルミュージアム」では、南湖公園の昔の写真絵はがきなど、歴史民俗資料館、小峰城歴史館の収蔵資料を検索、閲覧できます。
「しらかわデジタルミュージアム」はこちら
※二次元コードは、本紙をご覧ください。
■国史跡名勝指定100周年記念特別企画展 南湖公園ものがたり― 白河にうけつがれた共楽の園地 ―
国指定から100年の節目を記念し、南湖公園の築造から現代までの歴史を振り返り、その価値を改めて見直す展覧会を開催します。どうぞご来場ください。
時間:午前9時~午後5時
※入館は午後4時30分まで
会場:小峰城歴史館(郭内1-73 城山公園内)
休館日:毎週月曜日
※9月16日(祝)・23日(月)、10月14日(祝)、11月4日(月)は開館し、 翌日火曜日は休館
入館料:一般300円(団体250円)
小中高生・障がい者:100円(団体50円)
◆会期中のイベント
▽展示解説会
期日:9月14日(土)・22日(祝)、10月12日(土)、11月10日(日)
時間:午前11時、午後2時からの2回(各40分程度)
※9月14日(土)は午後2時からの1回のみ
参加料:無料
※入館券が必要
▽関連講演会(市立図書館郷土講演会)
日時:10月5日(土)/午後1時30分
講師:本中 眞(もとなか まこと)氏(奈良文化財研究所所長)
会場:市立図書館りぶらん
入場料:無料
※申し込み不要
▽現地説明会「学芸員と歩く南湖公園」
期日:11月3日(祝)(予定)
※内容、申し込み方法など詳細は、広報しらかわ10月号や展覧会チラシなどでお知らせします。
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