■文化財DXことはじめ
○文化財を未来に残す
組織や社会の在り方をデジタル化し、構造そのものを変えていく流れのことを、DX(デジタル・トランスフォーメーション)といいます。
未来を語る「DX」という変革の流れは、過去を語る「文化財」の世界にも大きな影響を与えています。そうした影響のひとつとして、「デジタル拓本」を例に挙げてみます。
そもそも拓本(たくほん)とは、石造物や土器などのうち、凹凸のあるものに対して、その凹凸を紙に写し取る技術のことです。文化財以外では、魚拓や版画などが一般に浸透しています。
文化財に対する拓本では、間接湿拓というやり方が用いられます。文化財そのものではなく紙を湿らせ、それを貼り付けて、紙の上から墨をこすりつけて形をとるやり方で、文化財を可能な限り傷つけない方法として長年採用されてきました。これに対し、完全非接触というデジタル拓本の技術が、今注目されています。
デジタル拓本の理屈は簡単で、カメラで対象物を何枚も様々な角度から撮影し、それらを組み合わせて一つのものにすることで陰影を強調し、刻まれた文字や土器の文様等を浮かび上がらせるというやり方です。
デジタル拓本をとる具体的な方法には、現在のところ大きく分けて二種類があります。
1つ目は、写真組み合わせ技法やレーザースキャナーなどを使って文化財の三次元モデルを作成し、そのモデル解析の一環として拓本を得る方法です。
○文化財にもアプリ
2つ目は、奈良文化財研究所の開発した陰影拓本アプリ「ひかり拓本」によって、スマホやタブレットの中に拓本画像を得る方法です。従来と同じような拓本を得るだけが目的であれば、「ひかり拓本」アプリを使うのが最も簡単です。「ひかり拓本」を使えば30分もしないうちに基本画像が出来上がります。
アプリをインストールできるスマホかタブレット、スマホなどを固定する三脚、そしてなるべく強力なライトがあればだれでも実践できるところがポイントで、開発者である奈良文化財研究所も中学生以上の使用を想定しています。教育DXの只中にいる子どもたちは使いこなすのもきっと早いのでしょう。誰もが地域の文化財を、あるいは文化財に限らない地域自慢やレアモノを自由に拓本し記録できる未来は、もうすでに足元まで来ているのです。
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