くらし [特集]ニセコ町に関わる全ての人へ~ニセコルールを今、考える(3)

●「ニセコルールが普及すれば滑る人たちが成長する。一人ひとりに分かってもらうことで、それぞれが頭でリスクを考える。結果、事故は減らせる」
・ニセコ雪崩調査所所長 新谷 暁生さん
40年前、ニセコは日本で一番雪崩事故が多い山でした。ニセコの雪を滑りたくて来ている人たちが、事故に遭わないようにするにはどうしたらよいか。コース外滑走が禁止されていても滑る人がいる。ならば、ゲートを設け、開閉し、そこで注意を呼びかけてコース外を滑らせたほうが、事故は減るのではないかと考えスタートしたのが、ニセコルールです。
ニセコルールは世界的にも知られていますが、いまだに国からは認められていません。コース外を滑らせてはいけない、しかし地域で作られたルールを優先するという国のルールのもと、ニセコルールは運用されています。ニセコルール制定から30年近くが経ち、ニセコでの事故は大きく減りました。しかし、ルールを守って滑る人が増えたことにより、ニセコのスキー場は混雑し、ほかのスキー場で滑る人が増え、ニセコ以外での事故が増えているのが現状です。スキー場によっては、ニセコのようにゲートを設けているところもありますが、観光振興が目的で、ゲートはいつも開き、コース外滑走は自己責任としています。ニセコルールの目的は、自由を尊重し、事故に遭わないようにする、事故防止です。決して地域が潤うことを目的とはしていません。観光振興のみを目的とし、安全性を保つことを無視してはいけません。事故が増えている現状を変えるためにも、ニセコルールを認めてもらい、ニセコのやり方を普及させていく必要があると考えます。普及することで、滑る人たちが自分でリスクを考えるようになります。一人ひとりが自分の頭で考えることで、事故は減らすことができます。
雪崩は、表層雪崩と全層雪崩に分けられ、厳冬期の表層雪崩が一番起こりやすいといわれています。表層雪崩は、降り積もった雪とその上に降った雪の境目にある層が原因で起こると考えられていますが、どの層が原因かが分かった時にはすでに事故は起きています。これまでの経験上、雪崩は全て吹雪の日かその翌日に起こっています。そこでニセコでは、吹雪でできた「ふきだまり」がどのような状態であり、その場合いつ雪崩が起きやすいか、時間による変化により雪崩の発生を予測しています。
予測には、まず気象庁のデータとニセコにある6つの風向風速計から、いつ風が強かったか、どの風向きだったかなどを確認します。また、ニセコは日本海が近いため、弁慶岬灯台や神威岬灯台の海上データも参考にしています。障害物がなく正確にデータに反映される海上のデータからは、そこから何分後にニセコでどういった変化が起こるか確認することができます。こうしたデータを見た後、早朝4時ごろから山に上がります。風向きや風の強さ、雪の結晶、雪庇(せっぴ)のでき方など、目視で確認します。雪の降り方は標高によっても異なるため、データから予測したことを裏付けるために、パトロール隊や圧雪車のオペレーターからも情報をもらっています。予測と目視から得た情報から雪崩情報を発信しています。
ニセコでは、30年前からこのような「ふきだまり」の時間による変化により雪崩の発生を予測してきました。これは学術的ではないとされてきましたが、防災科学研究所に協力いただき、この仮説の科学的証明に取り組んでいただいています。また、近年ではノルウェーやスイスでも同じような雪崩のメカニズムが証明され始め、世界の雪崩学が変わりつつあります。
この地域に住んでいるものの責任として、まだまだやるべきことがあります。ニセコルールは30年かけて信頼を積み重ねてきました。コース外滑走の事故は、遊びの中での問題で、これよりもひどい問題は世の中にたくさんあります。それでも遊びに来た人が亡くなってしまうということは無くさなければいけません。地域の信頼を無くさないよう、目の前のことをやっていきます。

●「安全に楽しく滑れるよう安全策を引き続き検討していきたい」
・ニセコアンヌプリ国際スキー場 支配人 田中 謙吾さん
ニセコルールができる以前、ゲートも無く、スキー場管理区域外での滑走が危険で、事故が多かった状況を見てきました。当時は、雪崩からの救出の際に使用するプローブなども無く、鉄筋の棒を使って捜索の練習をしていました。何をしているのだろうと思っていましたが、後々この練習の重要さが分かってきました。
スキー場には、スキーを経験したことがない外国のお客さんも多く来るようになりました。知識や経験が無い人も多いため、スキー場としてのけがの防止策も変わってきています。そういった人たちもコース外を滑ることもありますが、ニセコルールは滑る人を尊重するルールなので、止めることはできません。
ニセコのスキー場では、ゲート外の救出には基本的にパトロール隊が向かいます。雪崩は二次災害を引き起こす可能性もあり、救出に向かった際に巻き込まれる場合もあります。助けること、それによってパトロール隊員が危険にさらされることは、会社として葛藤があります。
スキー場はそもそも楽しむ場所。地元の人も近隣の人も、ウィンタースポーツを楽しむために来てほしいです。安全に楽しく滑ってほしい、滑る人を尊重するという気持ちは変わりません。また、スキー場は危険な場所だと認識されないよう、大きな事故を起こしてはいけません。そのためにも、雪崩調査所や役場、スキー場と協力し、ルールを広めることや安全策をさらに検討していきたいです。