文化 感動の場―点

■『壺と鴉と家』1989年小川原脩画
画面の奥には白壁の民家があり、手前の地面には赤みのある球体と鴉(からす)が描かれています。明るく調和のとれた色調からは静かに広がる時空を感じる作品です。
大きく描かれた球体は、小川原脩が1986(昭和61)年から1987(昭和62)年の年末年始にインドを旅したとき、ガンジスの上流にあるヒンドゥー教の聖地リシケシ、ハリドワールで見た壺(つぼ)です。
聖なるガンジスの水をくむために使われている素焼きの物で、街の屋台店に並んでいたそうです。小川原はこの形態の持つ不思議な魅力に惹かれたと画集に記載しています。帰国後はこの壺をモチーフにした作品を数多く作りました。
完全な球体に近い壺を「まる」、やや右下がりに見える家屋を「四角」、輪郭がシャープに描かれた鴉を「三角」の形に置き換えてみると、単純素朴な形態をした個々のモチーフを使ってひとつの画面を構成していることがわかります。「庭先のこの組み合わせが気に入った」という小川原がこの絵で表現したかった空気や気分を、見る側に読みとってほしいと語りかけてくる作品です。

文:金澤逸子(小川原脩記念美術館学芸スタッフ)