文化 感動の場―点

■『無題』1972年小川原脩画
どこを見ているのか焦点の合わない青い目の男。同じ顔が上下に並び、それぞれの顔の背景が赤と青に塗り分けられています。これは小川原脩が61歳のときに描いた自画像です。目の周りのたるみや頬のしわなど、ありのままの自分を再現しつつも、緑に塗られた肌は彫刻のような質感を作りあげています。
1970(昭和45)年頃に小川原は犬や馬、白鳥をモチーフにして人間社会をテーマにした作品や心象風景など多くの作品を描いていますが、この絵は自分をモチーフにして自身の心情を表現したものではないでしょうか。
1972(昭和47)年11月に発行された札幌の時計台ギャラリーの美術情報誌に「(自己を露呈したい欲望と、自己を隠蔽(いんぺい)したい欲望とのあいだ)で(豊かな自閉)におちいりつつ自分自身の道を探す以外に道はないと感ずることにほかならない。対自としての私自身をのぞき込み、世界内存在としての人間を求めようとする。」と小川原は書いています。
ふたつ並んだ顔は自身の内にある二面性を表し、ガッチリと組んだ手は社会情勢に翻弄(ほんろう)されず自己を抑制して作品と向き合うことへの強い意思表示に思えるのです。

文:金澤逸子(小川原脩記念美術館学芸スタッフ)