子育て 〔特集〕義務教育学校 教育の幅を広げる「完全小中一貫校」の可能性(1)

本格的な春を迎え、少しずつ新たな環境にも慣れてきたという方も多いと思います。今回は、令和4年4月に開校した比布町の義務教育学校(完全小中一貫校)「比布中央学校」の体制、取り組みについてお伝えします。

●教育目標
生きる力を身に付け
他者と共に
よりよく生きる児童・生徒の育成
~グローバルAI時代を生き抜くために~

■社会に羽ばたく準備の場
人が成長するためには、「時間」と「経験」が必要です。このことは、多くの皆さんが職場や子育てで実感されていることと思います。
義務教育は、社会に出るための準備の場です。義務教育は9年間と定められていますが、これまでの義務教育は小学校と中学校の別々の学校で行われてきました。そのため、同じ義務教育にもかかわらず、成長の時間が区切られていました。
平成28年施行の「改正学校教育法」で誕生した新たな学校種「義務教育学校」は、小学校、中学校と並ぶ3つ目の学校形態です。
義務教育9年間という時間を最大限に使って子どもたちの成長を促し、社会に羽ばたく準備をする学校です。

■社会が変われば準備も変わる
「社会が急激に変化している」と言われて久しいですが、社会が変われば当然、準備も変わらなければなりません。成人年齢が20歳から18歳へと引き下げられた現在、義務教育を修了してからわずか3年後には、大人としての責任を求められることになります。
そのため、これまで以上に義務教育段階での準備が重要になっています。

■「もう引き継ぎましたから」をなくす
これまでの小・中学校のつながりは、病院で例えれば、別々の病院同士が紹介状で引き継ぐような形でした。
当然、患者さんの症状は人それぞれ違いますので、引き継ぎは簡単にできるものではありません。
そのため、患者さんに不測の事態が起こったとき、最初の病院の治療に問題があったのか、引き継いだ後の対応が悪かったのか、原因の所在があいまいになり、ときには責任を押し付け合うことにもなりかねません。
学校も同様に、例えば困りごとが深刻化したお子さんに対し、小学校は「もう引き継ぎましたから」と言い、中学校は「もう少し育ててから引き継いでほしい」と言うような関係性になってしまうことが起こり得ます。
もちろん、こうしたことが常に当てはまるわけではありませんが、個々の職員が懸命に頑張っていても、別々の組織が同じ目的に向かって協力することはとても難しいものです。このことも、多くの皆さんが社会で体感されていることだと思います。
同じ病院でチームを組み、それぞれの専門家が計画的に治療にあたるような体制。変化する社会に対応し、一つの組織で社会への準備を行う場。これが「義務教育学校」です。
比布中央学校では、全ての教職員が、1年生から9年生を「自分の学校の子ども」として関わる体制になっています。

■社会に向けた比布中央学校の準備
比布中央学校では、義務教育修了後の目指す姿を定め、目標に到達するために、さまざまな取組み、成長のステップをつくっています。

■入学式・進級式~真の主役は7年生
150人近い人の前で、自分の思いを話した経験を持つ人は、どれほどいるでしょうか。
比布中央学校では、入学式は1年生、卒業式は9年生のみが対象です。一般的に中学校で行われる入学式はなく、その代わりに、1年生の入学式と合わせて7年生の進級式が行われます。
進級式では、新7年生一人ひとりが、在校生や保護者・来賓など150人近くの前で、自分の言葉で後期課程への抱負を述べます。
生徒がマイクを持った瞬間、会場は静まり返り、その緊張感が伝わってきます。中には緊張で言葉に詰まってしまう生徒もいますが、自然と会場から「がんばれ、がんばれ」と小さく励ます声が聞こえてきます。その励ましに背中を押され、意を決して話し始める姿に、ひときわ大きな拍手が送られます。
社会で求められる力の一つに、「自分の思いを伝える力」、「前に踏み出す力」があります。この進級式は、まさにそうした力を育む場であり、うまく話せた生徒も、思うようにいかなかった生徒も、それぞれがかけがえのない経験を積んで義務教育修了までのカウントダウンをスタートさせます。
これまでの学校では、新年度の主役は1年生ですが、比布中央学校における真の主役は、7年生です。
一般的な中学校の1年生にあたる7年生は、「中学校生活のスタート」ではなく、「義務教育の仕上げの3年間の始まり」という、特別な意味を持っています。

▽進級式の様子
「時間の使い方を工夫して勉強と部活を両立したい」「志望校合格に向けて予習・復習を徹底したい」「全道・全国大会を目指して練習に励みたい」など、新7年生それぞれの言葉で、さまざまな抱負が語られました。

■成長を止めない
これまでの義務教育では、6年生から中学1年生に進学する際、「成長が一時的に止まってしまう」という課題が指摘されてきました。
小学校では最上級生としてリーダーシップを発揮していた子どもたちが、中学校に進学すると最下級生になるため、これまで積み上げてきた経験が継続されない、という課題です。
繰り返しになりますが、義務教育の目的は、社会に羽ばたくための準備です。9年間は、長いようであっという間です。さらに、成人年齢が18歳となった現在、子どもたちにとっては一日一日がとても貴重な時間です。だからこそ、成長を止めている余裕はありません。
比布中央学校が6年生の卒業式は行わず、後期課程への進級式での経験を重視しているのは、義務教育修了までのラストスパートに向けて、子どもたちの意識と成長を加速させるための取り組みです。