くらし 地域で支え合えるまちづくりへ ~認知症に関する講演会を開催しました~

町は、認知症の人が尊厳を保ちながら希望を持って暮らすことができる地域共生社会の実現に向けて、認知症に関する情報を発信しています。若年性認知症当事者のさとうみきさんによる認知症講演会を開催しましたので、講演の一部を紹介します。

■講演会開催概要
講演会は、9月20日(土)に文化センターで次のとおり開催し、235人が参加しました。
テーマ:ひと足先に認知症になった私からのメッセージ
講師:さとうみきさん
講師紹介…東京都在住。2019年、43歳の時に若年性型認知症と診断を受けた。現在は夫、大学生の一人息子、甥の4人で生活している。
診断後はデイサービスのスタッフとして勤務を経て、現在は「とうきょう認知症希望大使」として、各地の講演会やピアサポートのほか、空港のユニバーサルデザイン委員会への参画や執筆などの活動を行っている。

■第1部 基調講演
○ドラマを見て感じた戸惑い
43歳の頃、仕事の予定を忘れたり、料理の手順が分からなくなったりすることが増え、「最近、物忘れが多いな」と感じていました。
ちょうどその頃、認知症をテーマにしたドラマを見て、自分と重なる部分があると感じ、病院を受診。告げられたのは「若年性アルツハイマー型認知症」という診断でした。「大切な家族に対して、『ごめんなさい、申し訳ない』という気持ちになった」と、さとうさんは当時を振り返ります。夫のようへいさんは、目の前の妻と、これまでイメージしていた認知症像が全く一致せず、混乱したと言います。

○閉じこもりの日々から抜け出して
診断後、さとうさんは家に閉じこもるようになりました。転機となったのは、あるデイサービスの代表との出会いです。同じ認知症と向き合う仲間に出会い、少しずつ心に光が差し込みました。
介護経験はありませんでしたが、そこで働くことを決め、誰かとつながることが生きる力を取り戻すきっかけになったと言います。

○認知症になっても「私らしさ」は変わらない
認知症と診断されると、急に何もできなくなると思われがちですが、実際には変化は少しずつで、ほとんどの人は急に何もできなくなることはありません。もしそう見える場合は、周囲の偏見や社会の見方に押しつぶされてしまった心の反応かもしれません。
一人一人が認知症を理解し、偏見なく見守ることが大切です。認知症でも、自分らしく暮らしを続けることは十分に可能です。その人がこれまでどんな暮らしをしてきたか、どんなことが好きだったかを理解することが、認知症の人を理解する第一歩になります。

○地域や社会と一緒に歩む
6年前は、認知症の私たちが地域や社会に歩み寄る時代でした。しかし今は違います。困ったときに「助けてください」と手を挙げれば、地域や社会が手を差し伸べてくれる時代です。
困っていなくても、早めに地域とつながることが大切です。身近に少し気になる人がいれば、無理に何かをしてあげようとせず、「こんにちは」と声をかけ、一緒に歩むだけでも十分です。

■第2部 パネルディスカッション
第2部のパネルディスカッションでは、さとうみきさん(以下さ)に加え、認知症疾患医療センターである大江病院の大江巌さん(以下大江)と音更町地域包括支援センターらんらんの大森麻美さん(以下大森)の2人も加わり、意見交換をしました。

○認知症に対する見方や変化
さ:認知症をオープンにできる環境になってきたと感じます。私は東京で希望大使をしていますが、北海道にも3人の認知症希望大使がいます。地域の当事者の話を聞くことで、正しい理解につながりやすいと実感しています。
大森:地域には、「認知症の人は何もできないわけではなく、趣味ややりたいことを楽しめる」と気付く声が増えています。家族からも「認知症があっても好きなことは続けられるんだね」と言われ、少しずつ理解が広がってきています。
大江:病院を受診する人の約7割は認知症に関する相談です。以前は症状が進んでからの相談が多かったのですが、最近は本人や家族の勧めで早期受診する人も増えています。若年層の相談も増え、「脳の健康診断」として早期受診しやすい体制や、同じ境遇の人とつながる場も整っています。

○私らしさ、あなたらしさ
大森:他人が決める〝その人らしさ〟ではなく、自分が考える〝私らしさ〟を皆さんに考えてほしいです。自分らしさを主張することも必要だと思っています。
大江:病院では詳しい検査をするので、その人の得意不得意な分野を見て本人のやりたいことを一緒に考えています。一度仕事を諦めた人が、再び介護施設で働くことができたこともありました。

○ピアサポートの大切さ
大森:町で行う認知症介護家族交流会には、介護中の人だけではなく、介護を終えた人も参加します。話すこと、聞いてもらうこと、そのどちらもが支えになり、気持ちの整理や癒しにつながります。「語り合う場」の力を強く感じます。
さ:私は若年性認知症の当事者と家族のカフェを立ち上げ、もうすぐ3年になります。月1回のカフェは席が足りないほどで、地域で支え合いながら「また会いたいね」と言える関係を広げています。
大江:大江病院でも、昨年から若年性認知症の人やご家族が集うカフェを始めました。3カ月に1度開催しており、本人や家族だけではなく、病院関係者なども来ており、カフェには穏やかな時間が流れています。

○その人らしさはどこにあるのか
さとうさんは「大切なのは、自分らしくいられる場所や人を見つけることです。本人や家族にとって気軽に〝自分を出せる〟環境は何より大切です。もし身近にそうした場がなければ、『自分のために一緒に作ってほしい』と声をかけてもいい。地域を変えていくのは、私たち一人一人です」と会場に呼びかけました。
「疲れたとき、顔を見て声をかけ合える関係こそ支えになります。抱え込まずに『助けて』と声を出してください」との言葉に、会場は温かな拍手に包まれました。

■認知症への理解を広げるための音更町の取り組みについて
町は、音更町認知症ガイドブックを作成しています。認知症の人やその家族が住み慣れた地域で安心して暮らしていくための情報が載っていますので、ぜひご活用ください。
今回行われた講演会の様子をYouTubeで見ることができます。動画の公開期間は、令和8年3月31日(火)までです。

問合先:保健センター内高齢者福祉課
【電話】32-4567