- 発行日 :
- 自治体名 : 福島県国見町
- 広報紙名 : 広報くにみ 令和8年2月号
■地域に寄り添い続けて56年。
一人の医師の志が、半世紀以上にわたり地域医療を支えてきました。
武田胃腸科内科医院は、高齢を理由に令和7年12月末をもって56年の歴史に幕を下ろしました。
世代を超えて寄り添い、私たちのすぐそばで安心を届けてきた“かかりつけ医”。
その歩みと、町民への感謝の思いをお伝えします。
■白衣姿に憧れて志した医師の道
武田先生が医師を志した原点は、小学4年生の頃にあります。竹とんぼを作ろうとしてナタで指をケガし、町内の病院で治療を受けた際、白衣を着た医師の姿に強い憧れを抱きました。「自分も、あの先生のようになりたい」。不安な気持ちを和らげ、丁寧に向き合ってくれた医師の姿は、幼い心に深く刻まれました。
福島県立医科大学での勤務を経て、昭和44年12月、地域医療に貢献したいとの思いから武田胃腸科内科医院を開業。当時、町内の医療機関は限られており、身近な医師の存在が強く求められていました。地域に根差した医療を実現したいという志が、長い診療人生の第一歩となりました。
■患者と同じ目線で向き合う「かかりつけ医」
58年間の診療で、武田先生が一貫して大切にしてきたのは、「患者の立場・目線で考えること」でした。医師だからといって上に立つのではなく、同じ人間として向き合うこと。症状だけでなく、生活や家族のことにも目を向けながら診療を続けてきました。その姿勢が、長年多くの町民から信頼を集めてきました。
印象深い出来事を伺ったとこころ、「幼いころから通っていた女の子が大人になり、やがて自分の子どもを連れて来てくれたことがありました。世代を超えて診ることができた喜びは、地域に根差した医院ならではの経験です」と、当時を思い出すように目じりを下げ、うれしそうに話してくれました。
また、かつては夜間の往診も珍しくなく、時間を問わず呼ばれれば駆けつける日々が続きました。大変なこともありましたが、「これが自分の天職だ」と言い聞かせて続けてきました。
診療は終わりますが、武田先生の思いは今も地域に向いています。「診察はできませんが、身近な相談役として、何かあれば気軽に声をかけてほしいですね」。その言葉からは、医師としてだけでなく、1人の町民として、これからも地域に寄り添い続けたいという変わらぬ思いが伝わってきます。
■感謝とともに、次の時代へ託す思い
医療を取り巻く環境は、この56年で大きく変化しました。医療機器の進歩により診断精度は向上し、かつて多かった病気は減少する一方、寿命の延びとともに、認知症やがんと向き合う医療の重要性が高まっています。時代の変化を肌で感じながらも、「地域に寄り添う医療の役割は、今も昔も変わらない」と武田先生は語ります。
閉院にあたり、先生は町民への感謝の言葉を口にします。「これまで当院を愛してくださり、本当にありがとうございました」。そして、長年医療に携わってきた立場から、こう続けます。「医学は予防です。病気になる前に防ぐことが何より大切。自分の健康は、自分でしか守れません」。診療の現場で培ってきた経験から導き出された、重みのあるメッセージです。
次世代の医師へは、「自分よりも患者のことを第一に考え、行動してほしい」とエールを送り、医療とは何のためにあるのか、その原点を静かに託します。
■白衣を脱いで、次の時間へ
診療を終えた後について尋ねると、表情は穏やかに和らぎました。38年続けてきた趣味のスキューバダイビング。これまでは年に2回ほど海に潜るのが精いっぱいでしたが、「これからは時間に縛られず、思う存分楽しみたい」と笑顔を見せます。海の中での時間は、長年、診療に向き合ってきた先生にとって、心と体をリセットする大切なひとときでした。
地域に寄り添い続けた56年。その歩みを胸に、これからは、自分の時間を大切にしながら、新たな日々を歩んでいきます。武田胃腸科内科医院の歴史と、武田先生の志は、町の記憶として、これからも受け継がれていくことでしょう。
■プロフィール 武田欣也(たけだきんや)
武田胃腸科内科医院院長。昭和44年12月に開業し、56年にわたり地域医療に携わる。患者に寄り添う診療を大切にし、世代を超えて町民の健康を支えてきた。趣味はスキューバダイビング。高齢を理由に令和7年12月末をもって閉院。
