- 発行日 :
- 自治体名 : 福島県新地町
- 広報紙名 : 広報しんち 令和7年5月5日号
■泉長者の話 その1
平安の昔。
戦の絶えない都から、一人の若者が牛を一頭連れて、平和な場所を求めて旅をしていたったと。
その男は紀の国※1の生まれで、熊野神社を深く信仰していて毎朝のお参りを欠かさなかったと。
ある晩、夢の中に一羽のカラスが現れて、
「我は熊野神社の使いである。道案内をするからついて来い。」
と言うと、ふっと消えてしまったと。男は目を覚ましてから「なんとも不思議な夢をみたもんだなぁ。」と思って、その日も神社にお参りに行ったと。
帰り道、カラスが一羽、自分の前になり後になりして、飛んでいるのに気がついたと。
「さては、夢に出てきたカラスだべか」と、後をついていくと、磐城の国の泉村に着いたと。
そこでしばらく暮らしていたれば、またカラスが現れて道案内をしてくれたと。
そしてやっとたどり着いたところは高平の泉というところだったと。
そこに腰を落ち着けて暮らしていたある日、飼っていた牛が泉の水を飲んだら、なんだかふらふらして酔っぱらったようになったと。
不思議に思って男も飲んでみたれば、なんと、その泉の水は酒だったと。
男はこんこんと湧き出る酒を売って、大金持ちになり、泉長者と呼ばれるようになったと。
娘の婿が酒好きだというので、そこから娘の嫁ぎ先のお浜まで竹の樋をつなげて、酒を送っていたんだと。
樋のつなぎ目からポタリ、ポタリと酒のしずくが落ちている場所があったと。
それでそこは「雫(しどけ)」と呼ばれるようになったと。
また、貝殻で酒をすくって飲んでいたところは「貝浜」って呼ばれるようになったと。
またいつの世も、悪いことを考える人がいるもので、樋の途中で酒を失敬しようと思った人がいたったと。
こっそりと樋を流れてくる酒を飲んでみたれば、酒の味はしなくて渋い水だったと。
そこでここを「渋佐」と呼ぶようになったと。
このお話は、町に伝わる泉長者と呼ばれた長者様のお話です。酒で富を得た長者様。その後の泉長者に何が待ち受けているのでしょうか。次号をお楽しみに。
※1 紀の国 紀国。現在の和歌山県辺り。
新地語ってみっ会では、語り部による昔話や紙芝居など毎月第3土曜日13時30分から二羽渡神社南、おがわ観海堂(小野俊雄宅離れ)にて参加費無料で、公開しています。興味のある方はぜひご参加ください。
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