文化 特集 伝統をつなぐ職人の手仕事(1)
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- 発行日 :
- 自治体名 : 茨城県鹿嶋市
- 広報紙名 : 広報かしま 2025年5月号
塗師 小林 慎二(こばやし しんじ)さん
―輪島塗―
石川県・輪島で受け継がれてきた、日本を代表する漆器。
福島県の会津塗、青森県の津軽塗に並び、日本三大漆器の一つ。
丈夫さと美しさを兼ね備え、使うほどに艶を増し、修理して育てる器として、日常にも映える工芸です。
~暮らしに寄り添う漆の器~
輪島塗は、塗師(ぬし)と呼ばれる職人が、一つひとつ丁寧に、漆を薄く塗っては乾かし、研ぐという工程を、何度も繰り返して仕上げる日本の伝統工芸品です。木でできた器に、漆を何層にも重ねていくため、一つの作品が完成するまでには、長い時間と手間がかかります。塗師になるには、何年もの修行を積み、繊細な技術を身につける必要があります。
小林慎二さんは、石川県輪島市で塗師としての技術を磨き、現在は、鹿嶋市に工房を構えて活動しています。
毎日の暮らしの中で、気軽に使ってほしい。そんな想いから作られる小林さんの漆器は、実用性と美しさを兼ね備え、さまざまなメディアや雑誌などでも紹介されています。中でも「姫椀(ひめわん)」や「うどん鉢」の漆器は、贈り物としても人気を集めています。
今回の特集は、塗師が漆器を完成させるまでの様子と、小林さんが大切にしている、暮らしに寄り添う器作りの魅力を紹介します。
■一つひとつ、丁寧に塗り重ねて 手間を惜しまぬ塗師の仕事
日本には、さまざまな種類の漆器がありますが、輪島塗の特徴は「地(ぢ)の粉(こ)」という素材を使うことです。珪藻土(けいそうど)を焼いて粉にしたもので、漆に混ぜて下地を作ることで、傷や衝撃に強くなり、この下地作りが、輪島塗ならではの特徴です。
漆器作りは、まず木地師(きじし)と呼ばれる木を加工する職人さんに、木地(器の成形)を依頼するところから始まります。木地が届いたら、ここから塗師の出番です。お椀の曲線にぴったり合うように、自分で削って調整したヘラで、木地の表面の小さな凸凹を、パテ状にした下地漆で丁寧に埋めていきます。
木地に漆を塗ると、乳白色の漆が空気に触れることで、茶褐色になり、やがて透明の黒色に変化します。漆は、乾くのではなく、空気中の湿気と酸素で固まって硬化していきます。漆は、漆の木から取れる天然の樹液で、1本の木からは、わずか200cc程しか採れません。
漆塗りに使う刷毛(はけ)は、女性の髪の毛で作られた特別な道具です。しなやかで塗りムラが出にくく、塗師には欠かせない貴重な道具ですが、この刷毛を作る職人さんは、今、日本にたった2人しか居ません。
漆は、塗る前に専用の吉野紙という和紙で濾(こ)して、不純物を取り除きます。そして、下塗り・中塗り・上塗りと、塗っては乾かし、研いでなめらかにする作業を8回以上繰り返します。塗面は、塗る度に24時間以上乾かす必要があり、器の形によっては、1面ずつしか塗れないこともあるため、器1周を塗り終わるのに5~6回かかることもあります。
仕上げの上塗りでは、わずかな埃(ほこり)も大敵のため、専用の部屋で作業します。器全体に漆を塗り終えたら、鳥の羽の芯を使って、塗面の埃を一つずつ取り除きます。そして、塗面の漆が垂れてムラにならないように、回転風呂という装置を使い、器を上下に反転させながら乾燥させることで、均一で美しい仕上がりの器が完成します。
私のこだわりは、漆の艶が、しっとり落ち着いた質感になるように、自分で攪拌(かくはん)して作った漆を使っていることです。