- 発行日 :
- 自治体名 : 茨城県鹿嶋市
- 広報紙名 : 広報かしま 2025年5月号
■漆器の魅力 使い込むほど味が出る
▽漆との出会い
工芸に興味があって美術大学に進んだのですが、その時、漆のことは全然知りませんでした。専攻を選ぶ時に、漆と焼き物と金属の中から選べたのですが、一番知らなかった漆にしてみようと思いました。初めて漆に触れたら、あの艶がすごく魅力的で、どんどんのめり込んでいきました。卒業後は、漆塗りの技術を学ぶために、輪島にある漆芸研修所に入りました。そこは人間国宝の技術や伝統工芸を学べる場所で、1年間かけてお椀を5つ作るというカリキュラムでした。すごく丁寧な教育でしたが、正直、これでは食べていけないなと思い、技術を身につけるために、本格的に修業をしたいと思いました。
▽弟子入りの日々
大学の先輩に紹介してもらい、親方の元に弟子入りができました。実は、親方はすごく有名な方なのですが、当時の私は、親方のことを全然知らなくて。弟子の時は、今よりもハードでした。朝の8時半に出勤したら夜9時まで、ずっと親方について作業して、帰宅後は親方から仕事をもらい、自宅で仕上げて、1個いくらで買い取って貰えるんです。ある意味、技術を磨くための宿題です。深夜3時頃まで作業してました。でも、その位やらせてもらったからこそ、技術が育って、独立してから困ることはありませんでした。その後、新しい工房を建てるために、雪の降らない地域を探していたら、鹿嶋市にいい場所があったので、移住してきました。
▽持ってもまったく熱くない
漆器は、使ったことがない人にこそ、使ってみてもらいたいです。意外と手軽に使えるし、傷がついても大丈夫。がんがん使って、やさしく洗って、それでいいんです。持っても熱くないし、軽くて丈夫だから、年配の方にも扱いやすいと好評です。例えば、僕が作る「うどん鉢」は、うどんを入れても器がまったく熱くないと好評です。それに、スタイリッシュな器もいいけれど、毎日使うからこそ、安定感のある器が一番大事だと思います。なにより、ふとした時に、「なんか、これいいな」って思ってもらえる器になれたら、それが一番うれしいです。
▽キズも味になる
出産祝いの贈り物としても人気の「姫椀」という、小さなお椀があるんですけど、子どもがスプーンでガリガリしたり、フォークでカチャカチャしたりして、傷がついても、それが逆に味になってくるんです。むしろ使い込むほどに、その器だけの風合いが出てきて、思い出の器になっていきます。漆器は、使い続けることで手になじみ、表面に艶が出てくる手艶も魅力です。使い始めた頃と、何年も使った後とでは、見た目も、手ざわりも、まったく違ってきます。そんなふうに「育っていく器」は、他の素材ではなかなか味わえない、漆ならではの楽しみ方かもしれません。
▽新しい事にも挑戦を
器の他に、茶箱も作っていますが、植物が好きなので、最近は「飾る器」にも挑戦しています。去年の展覧会に花器を出しましたが、また作ってみたいと思います。器作りは楽しいのですが、同じものばかり作っていると飽きてくるので、新しいことにも挑戦しながら、自分の中でバランスを取っている感じです。
▽塗師の面白さ
10年以上経った頃から、ようやく仕上げの上塗りが上手くいくようになってきたと思えるようになりました。やっぱり、漆って綺麗だなと思って。上塗りを美しく仕上げるには、手前の仕事の積み重ねが大切で、どこか一つの作業でも調子が悪いと、最後の仕上がりに影響が出てしまいます。最近になって、ようやく自分が目指している塗りが出来ていると感じるようになりました。展覧会で、自分の作品を見ても綺麗だなと思って。少しは進歩したかなと思います。
■小林 慎二さん
略歴
1974年 東京都生まれ
2001年 東北芸術工科大学芸術学部卒業後、赤木明登氏に弟子入りが決まり、輪島市漆芸研修所を退所
2005年 4年の年季明け
2006年 1年の御礼奉公を終え、独立
2011年 鹿嶋市の工房で制作を始める
2015年 いばらきデザインセレクション2015プロダクトデザイン分野 選定
■展覧会 ※関東圏内のみ掲載
▽日々の漆器展
日時:11月8日(土)~25日(火)
場所:うつわ party(東京都目黒区駒場2丁目9-2)
【電話】03-3467-6830
※詳細は、小林慎二さんのInstagramまたは右記QRコードからご確認ください。
本紙を参照ください
[取扱店] ※茨城県内のみ掲載
場所:ろばの家
(つくば市天久保2丁目11-1)
営業時間:12:00~18:00
※月・火曜日定休日
【電話】050-3512-0605
【E-mail】[email protected]
※詳細は、上記QRコードからご確認ください。
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小林さんが塗師の修行をしていた能登半島では、昨年の地震と洪水により、多くの工房も被災しました。1日でも早い復興のため、皆さんの応援とご支援をお願いします。