文化 黒羽芭蕉の館だより 第105回

■松尾芭蕉書簡(万菊丸(まんぎくまる)宛て)
今回は、松尾芭蕉(1644~1694)が万菊丸宛てに認(したた)めた書簡(1幅、個人蔵)を紹介します。万菊丸とは、芭蕉が寵愛(ちょうあい)した門人杜国(とこく)の戯号(ぎごう)です。芭蕉は貞享(じょうきょう)5年(1688)春、杜国を吉野の花見に誘い、杜国は万菊丸という児童めかした戯号で1か月余の旅を共にしていました。

本書簡は、芭蕉が元禄2年(1689)の『おくのほそ道』の旅を終えた翌3年の正月17日付で認めたもので、前半では杜国(万菊丸)の様子を尋ねています。その後、昨年11月末に奈良の春日若宮(かすがわかみや)の祭礼を見物し、近江国膳所(ぜぜ)(現在の滋賀県大津市)で越年し、今は伊賀上野(現在の三重県伊賀市)にいる、といった自身の近況を伝え、正月か2月のうちに「いがへ御こ(越)し」を待ち望んでいる、としています。さらに「こもを着て誰人ゐ(たれびとい)ます花の春」などの近作6句を報じる内容となっています。

杜国は坪井庄兵衛(つぼいしょうべえ)という名古屋の富裕な米穀商でしたが、当時は罪を得て三河国伊良湖(いらご)(現在の愛知県田原市)で蟄居(ちっきょ)謹慎中でした。なお、杜国は、この書簡を受け取って間もない元禄3年3月、三十余歳で伊良湖に没しています。

本書簡は、当館芭蕉展示室において8月31日(日)まで展示しますので、ぜひご覧ください。

問合せ:黒羽芭蕉の館
【電話】0287-54-4151