- 発行日 :
- 自治体名 : 埼玉県羽生市
- 広報紙名 : 広報はにゅう 令和8年2月号
令和7年11月17日、南3丁目にある日本家屋「冨田家住宅離れ」が、羽生市で初の国登録有形文化財(建造物)に登録されました。今回は、建物の歴史と趣向を凝らしたつくり、保存までの歩みを紹介します。
■登録有形文化財(建造物)とは
築後50年を経過している建造物で、「国土の歴史的景観への寄与」「造形の規範」「再現することが容易ではない」という条件のいずれかを満たすものが対象となります。
「冨田家住宅離れ」は昭和27(1952)年、冨田染物店2代目の冨田辰蔵(たつぞう)氏により建てられました。
冨田染物店は明治17年に辰蔵氏の父伊三郎(いさぶろう)氏が創業。江戸時代から藍染の産地として栄えた羽生市は、最盛期には市内に200軒以上の染物屋が軒を連ねました。冨田染物店もそのうちの1軒で、大正、昭和時代と日本経済の発展とともに事業を拡大していきました。戦時中は、軍の指定工場となり国に協力。戦後もさらに繁盛しましたが、昭和35年、不景気に見舞われ廃業しました。
建築当初「離れ」は、取引先や労働者の宿泊所、客人をもてなす場所として使われましたが、廃業後は親族が居住用として使用。年々住む人が減り、平成10年から令和4年まで24年間空き家となりました。
■建物を残したい
先代が他界し、辰蔵氏の孫である冨田実千代(みちよ)さんが「離れ」を相続しましたが、空き家状態が長く続き、建物はかなり傷んでいました。将来的には解体もやむを得ないと考えていたところ、妹の大野佐千代(おおのさちよ)さんが、何とかして建物を残し活用しようと、一念発起しました。
結婚を機に羽生市を離れ、神奈川県へ移住していた大野さん。移住先でさまざまな人に声をかけ、打開策を探していたとき、建築士で古民家に詳しい鴨志田(かもしだ)さんと出会いました。令和4年4月に、鴨志田さんが市内を訪れ、「離れ」を見学したところ、今では再現が難しい良質な材木と高い技術で建てられた貴重な建築物であることがわかりました。ほどなくして、同じ志を持つ二階堂(にかいどう)さんも加わり、3人の再生活用への挑戦が始まりました。
■建物再生への挑戦
屋根の瓦は落ち、雨漏りで壁から床まで崩れた状態の「離れ」。大野さん、鴨志田さん、二階堂さんの3人は、月に1~2回の頻度で羽生市を訪れ、建物の改修作業を行いました。まず、雨漏りを防ぐため屋根の修繕から着手。修繕の合間、建物内の荷物を整理し、有志の方たちの力を借りながら自分たちの手で、床張りや壁塗り、襖(ふすま)貼りなどを進めました。また、ワークショップも定期的に開催し、子どもから大人まで多くの方に、古民家を修理する体験の場を設けました。
約2年間の活動で、課題や活用の方向性が見えてきた3人は、令和6年3月に、組織として信用を高め、活動の幅を広げるため、一般社団法人「とみ田や」を設立。屋根の工事資金を募るため、クラウドファンディングを行いました。たくさんの方たちの支援により工事が完了し、同年7月、改修作業は一段落しました。
■地域から愛される場所に
「とみ田や」として建物の運営・管理を始めた3人。貴重な伝統建築物を後世に残し、地域の集いの場として活用してもらうため、国文化財登録の申請を行いました。また、子ども食堂やイベントなどの開催・企画、レンタルスペースの提供なども始め、現在も精力的に活動しています。
国文化財登録の決定を受けて3人は次のように話します。「建物が広く世間に知られ、市民や地域から愛される場所になれば嬉しいです。私たち3人は家主でも市民でもありませんが、とみ田やが地域のお茶飲み場や子どもの居場所、夢を叶える人の応援の場になれるよう、地域の方たちと一緒に活動を続けていきます」と思いを込めます。
■祖父の思いが宿った建物
代表の大野さんは「とみ田や」の魅力を次のように話します。「特に好きな場所は、1階の広い縁側。開放的で居心地が良く、ときどき様子を見に来た近所の方と世間話をしたりと、人との交流が自然と生まれる空間です。建物を建てた祖父は、寡黙な性格でしたが、人を招いてもてなすことが好きだったと聞いています。この建物からは、そんな祖父の、人を敬い他人を立てる人柄を感じます」
■冨田家住宅離れの概要
建築年代:昭和27(1952)年
所在地:南3丁目8-12
登録基準:造形の規範となっているもの
主な特徴:2階建ての離れ座敷で屋根は切妻造(きりづまづくり)瓦ぶき。南面東寄りに入母屋造(いりおもやづくり)の玄関が突出し、西側には階段室などを増築しています。各階、南庭に面して3室の続き間座敷を配し、下地窓を蔓枝(つるえだ)で菱組(ひしくみ)にするなど全体に凝ったつくりを施しています。
■一般社団法人「とみ田や」
【電話】080-2572-4630
【E-mail】[email protected]
注意:冨田家住宅離れは私有地にあり、普段は公開されていません。見学・利用に興味がある方は、とみ田やまでご連絡ください。
令和7年3月、クラウドファンディング支援者を招いて「感謝祭」を開催。市内企業や個人の協力のもと、藍染の工場見学や体験、日本酒等の醸造紹介を行いました。
