文化 市美術館コレクション探訪

■吉田博(よしだひろし)
《帆船 朝 瀬戸内海集》
木版多色摺 大正15年(1926) 千葉市美術館蔵
水面に浮かぶ帆船を照らす、まばゆい朝の光。瀬戸内の穏やかな水面が昇る朝日を受けて輝きだす、その一瞬を捉えています。本図は、洋画家・吉田博が50歳で手掛けた木版画。実は同じ画題を5年前の大正10年(1921)に版元・渡邊庄三郎のもとで3部作として制作していますが、大正12年の関東大震災で版木や作品が焼失してしまいます。震災後、私家版として改めて発表した本作ではサイズを大きくし、この「朝」と、同じ版木を用いつつ色を変えた「夜」「午前」「午後」「霧」「夕」「夜」の6部作へと展開を遂げました。逆境を超えた先の新境地-凄まじい修行ぶりで「絵の鬼」と呼ばれたという吉田らしい、不屈の精神が垣間見える名品です。
(常設展示室にて10月8日から11月3日まで展示)