文化 うめすけの多古町 探訪

◆「文字の力」
インターチェンジ建設予定地の喜多は、複数の村が合併した時に好字令(7月号参照)を踏襲し、どこかより見ての北(きた)に「喜びが多い」を充てたものと推測しています。今月は、そんな文字について。
村名は縛りがなかったものの、国名は必ず二文字と決まっていました。例えば、粟(あわ)国(徳島県)を阿波国とし、そこからの移民が上総国に阿波郡を創り、その後同音の安房に替えたと伝わります。また、木を紀伊(きい)にした国もあれば、泉は和を添え和泉にしても読みは「いずみ」のままでした。元号『和銅』の和に「上質な」の含みもあったように、文字の力を恃(たの)む気持ちが強かったのでしょう。
次に三文字の場合はどうしたか、総国(千葉県)と同じく上下に分かれていた毛野国で検証します。上毛野(かみつけの)(群馬県)、下毛野(しもつけの)(栃木県)と称していたのを、読みは毛を残し字は野を残して、上野(こうづけ)と下野(しもつけ)に改めました。二県を結ぶ鉄道は、消えた字を復活させた両毛線ですね。
さて、そろそろ忠臣蔵(ちゅうしんぐら)という言葉が、テレビや雑誌で目立ってきます。江戸時代のパワハラ疑惑を基にした物語ですが、悪役の吉良上野介(こうづけのすけ)(イケメンでインテリ。名君説も有り)は、上野国の介(副知事)を示す役職名です。吉良(きら)邸に討ち入って主君の仇(かたき)を取った大石内蔵助(くらのすけ)も、内蔵寮(宝物庫係)副長の意で個人名じゃありません。スケは他の字(輔・亮・祐・佐)も次官を表します。もっとも、実際の業務とは関係ない形式的な呼称でしたし、読み方もスケとは限らず、多古藩には松平大蔵少輔(おおくらのしょうゆう)という殿様がいました。
ちなみに、再来年の大河ドラマで松坂桃李さんが演じる主人公、小栗忠順(おぐりただまさ)が名乗る際に使っていた役職名も上野介です。喜多の隣の五反田は小栗家の領地でしたから、番組最後の紀行コーナーに推薦してみてはいかがでしょうか。