- 発行日 :
- 自治体名 : 千葉県多古町
- 広報紙名 : 広報たこ 令和7年12月号
太平洋戦争終結から80年を迎えた今年、広報たこでは8月号から毎月、戦争を知る世代の方々からお話を聞き、戦争を振り返ってきました。最終回となる今回は、多古特別養護老人ホームに入所するお二人の方に、戦争体験をお聞きしました。
◆戦争体験を聞く 林(はやし)くらさん[塙(西部)](大正15年10月3日生まれ)
戦争中の体験は、とても語り尽くせるものではありませんが、たくさんの困難がありました。特に食べ物は、今のように豊富ではありませんでしたから、畑で採れたものをご飯に入れて工夫しながら食べていました。とにかく大変な時代で、みんな生きるのに必死だったのです。
昭和20年、結婚したばかりの頃、私は夫と神奈川県川崎市におり、夫の勤める会社の社宅に住んでいました。私は直接体験してはいませんが、その年の3月10日には東京大空襲がありました。暑さに耐えきれずに大勢の人が川に飛び込んで溺れてしまい、遺体で川が流れなかったそうです。それから間もない4月15日のことですが、川崎でも空襲がありました。B29という爆撃機から焼夷(しょうい)弾が落とされたのです。その日は夫と社宅におり、少しでも火災の影響を避けようと水を被ってから必死で逃げました。爆弾の落ちる音は、とても大きく恐ろしいものでした。私も夫も難を逃れることができましたが、運が悪ければ命を落としていたかもしれません。
戦争が終わった時は、これからどうなるのだろうという心配が大きかったかもしれないですが、さまざまな思いがあり一言でお伝えするのは難しいですね。幸い体は丈夫で、99歳まで生きてこられましたが、これは今までの人生でお世話になったたくさんの方々のおかげです。施設の職員の方からも、「皆さんが戦争を生き抜いて頑張ってきてくれたから、今の私たちがあるんですよ」という言葉をかけてもらってうれしかったですね。私の体験をできる限りお話させていただきましたが、戦争は実際に体験した人でなければ分からないこと、言葉では伝えきれないことばかりです。これからの時代を生きる皆さんには絶対に体験してほしくないことですが、こんな時代があったことを忘れないでいただきたいです。
◆戦争体験を聞く 藤井(ふじい)たかさん[大門](昭和2年11月9日生まれ)
私は終戦から数年後に結婚し、多古町に来ました。戦争があった頃はまだ10代で、隣の芝山町の実家に住んでいました。私にはあの時代、青春というものはありませんでした。体が丈夫な男性の多くは兵隊に取られてしまったので、女性の私も田んぼを耕すなどの力仕事もしており、みんな生きるために必死で働いていたと思います。食べ物も少なく、ご飯にさつまいもを刻んで入れて食べていました。
戦争はとても恐ろしく、とても悲しいものです。空襲警報が鳴ると、家が標的にされないよう明かりを覆って隠していました。東京の方で空襲があった時には、空が赤く見えることもあって、とても恐ろしい光景だったと記憶しています。空襲に遭った人の中には、服に火が燃え移ってしまい亡くなった方もいたそうです。死というものがすぐ近くにあった本当に悲しい時代でした。実は、私の三番目の兄も異国の地で戦死をしています。任務でサイパン島に赴き、その地で玉砕を遂げたのです。兄が出征する時、私の母は兄を見送るのが辛くて、部屋にこもってずっと泣いていました。私や家族にとって特に辛い記憶です。兄のように若くして亡くなることや、私たち家族のような思いをすることは、あってはなりません。
戦争が終わった時は、とにかくほっとしましたね。戦争を経験したからこそ、平和というものがとても大切でかけがえのないものだと実感しています。戦争を経験していない世代の人たちにも、町の広報紙を通して戦争のことを知っていただけるのは、ありがたいことです。一番お伝えしたいことは、「絶対に戦争はしてはだめ」ということです。絶対にです。平和に過ごしていただきたい。それが願いです。
◆編集後記
令和7年(2025年)、戦後80年という節目の年に、町民の皆さんの戦争体験などを数回にわたって取材してきました。人の記憶は月日とともに少しずつ薄れ、曖昧さも持っています。話をお聞きしてお伝えすることの難しさを改めて感じました。当事者の思いに触れることができたことは、大変意義があったと思います。歴史の知識として戦争を知ることは、教科書を読めばいつでも可能ですが、実際に戦争を見て体験した方々の話を聞き、その思いに触れることは今しかできないことです。今回取材をしたお二人も、戦争のことを伝えなければとの思いで、お話をしてくださいました。
この「戦争を見つめて」は今回で終わりますが、多くの方々から戦争体験や平和への思いを聞いたことで「絶対に戦争をしてはいけない」というメッセージが、とても心に響きました。平和を守り続けていくために、戦争という悲劇があったことを心に留めながら、日々を過ごしていきたいですね。
