イベント 【特集】伝統の花火への新たな挑戦

令和5年の広報9月号で取材させていただいた、(有)福山花火工場の土屋善信さん。2年前に出場した大曲の花火大会では、残念ながら入賞には手が届きませんでした。次は結果を残したいと語っていた土屋さんですが、4月26日に行われた「大曲の花火―春の賞―新作花火コレクション2025世界の花火・日本の花火」において、見事「芯入割物」の部門で準優勝となり、日本花火鑑賞士特別賞もあわせて受賞するという素晴らしい成績を残しました。新しいことに挑戦し、さらに高みを目指し続ける土屋さんに、再びインタビューにお答えいただきました。

■(有)福山花火工場 製造長 土屋善信さん(36歳・又富在住)
◇一発勝負で大会に臨む
今回出場した大会は、45歳以下の全国の花火師の中から18人が選出され、大玉(尺玉)と、4号玉・5号玉を組み合わせたスターマインを打上げて競い合いますが、入賞したのは尺玉の部門です。タイトルどおりにちゃんと構成されているか、しっかり形が出ているかなど、様々な基準があります。
2年前に同じ大会に出場した時は、入賞には届きませんでした。他の人が作らない花火を作って勝負したのですが、日本古くからの花火というのも審査基準のひとつだったので、その時に作った玉は審査基準から外れるものになってしまいました。大曲の花火の春の章は、世界と日本の花火をうたっているので、今までにないもの、新しいものをということで、若手花火師を対象にしています。しかし新しいものとはいいつつも、審査基準として伝統も重視されます。バランスが必要になってきます。今回の大会では、前回に指摘いただいたところを改善し、新たに改良を加えたものを作って入賞することができました。
花火作りの技術はどんどん進化していて、花火を作る人たちが切磋琢磨して、技術を向上させています。きれいに打ち上がるかどうかは、作り手の技術以外に、当日の条件もあるので、打ち上げてみなければわからないところもあります。事前に許可申請を出して試し打ちすることもできますが、千葉県では尺玉を上げられる場所が少ないため、私は一発勝負という形で臨みました。

◇コロナ禍のピンチをチャンスに
父親が花火の打ち上げを行っていた関係で、福山花火とつながりができ、21歳の頃に入社しました。当時は3年程で会社を辞めてしまったのですが、今の代表になった際に一緒にやってくれないかと誘われ、また会社に戻りました。以前勤めていた頃は、古くからのやり方で、厳しいところが多く、年数が経たなければ一切花火を作らせてもらえなかったので、何のために製造に携わっているのだろうという思いになり、会社を離れてしまいました。今の代表は新しいもの、全国の人たちが驚くものを作るというタイプなので、どちらかといえば、そっちの方が好きかなという思いがあります。
しかし代表が変わって、一から再スタートして上手くいったわけでもありません。会社に戻った頃はコロナの時期で、花火大会自体が開催されず、売上も90%減で、生活できるかできないかとヒヤヒヤでした。けれど、そこが逆に自分たちの技術を上げられる時間になりました。自分たちが成長できればそのまま登って上昇していける、どん底からはい上がるくらいの気持ちでやれたので、すごく面白く、その間に技術をどんどん磨きました。コロナ禍でも花火大会を続けているところがあり、そこで新しいものを作って打ち上げ、話題になってどんどん名前が売れていき、大曲の花火にも選ばれるようになりました。ピンチをチャンスに変えたような感じで、本当にすごく面白い時期でした。大曲の花火の際は、妻と小4の娘は留守番でしたが、ライブ中継などで結果は知っていたので、すぐに連絡が来て、すごく喜んでいました。妻はこれまでアルバイトで同じ会社で働いていましたが、昨年から社員になり、本格的に花火師として製造に携わっています。競技大会で玉を作るのはすごくストレスになります。一発勝負ですし、失敗したらそこで自分たちの名も落ちてしまいます。今は会社で製造長をやっているため、新しい社員に指導しなくてはいけないし、次やる段取りも考えなければならず、競技大会の玉に専念できる時間が本当に少ない状況です。こうした中で玉を作る辛さを一番間近で妻が見ているので、その分、妻の嬉しさも倍増したんじゃないかなと思います。妻は弟子でもあり、ライバルでもあり、とてもいい関係です。

◇目標は総合優勝
大曲の花火は誰もが出られる大会ではなく、45歳という年齢制限もあります。工場の自分以外の若手にもバトンを繋げたいです。今年の成績で来年の出場は確定しているので、大玉(尺玉)は確実に優勝を狙いますが、スターマインも入賞していかないと総合優勝できないので、どちらも優勝して、総合優勝を目指したいです。
大曲以外の花火大会でも、見に来てよかったねとか、福山さんのもっと見たいねと思っていただけるように、新しいものにどんどん挑戦していきたいと思います。
新しいことが面白いというのもありますが、前にも見たよね、昔もあったよねといわれるようなものではなく、こんなの見たことない、またここの花火大会に来たいといってもらえるものを作りたいです。そしてまた来てもらった時に、またちがう新しいものを打ち上げれば、どんどんお客さんの声が広がっていき、たくさんの人が見に来てくれると思います。花火師なので、打ち上げ終わった後の歓声が一番の力になります。そういう花火大会や花火作りをしていけたらと思うので、どんどん新しいものを作っていきたいです。

◇長南の花火に向けて
長南の花火は、昨年から福山花火工場1社で請け負っています。長南の花火は地元の方に見てもらう花火大会というところが大きいですが、もっと口コミを広げて、県外からも集客できれば、もっとよりいい花火大会になっていけると思います。それが今の時代の流れになっているので、長南出身者として、そうしていけたらと思っています。
しかし、圏央道があるため、昔のように大きな玉は打ち上げられず、小さい玉では、色んなものが作れないのが現状です。小さな玉一発でお客さんが喜べるものを作れるように日々努力はしていますが、現状だとかなり苦しいところなので、演出の方で喜んでもらえるように、今向かっている状態です。
うちの会社では、アーティストのライブステージ上の花火もやらせていただいているので、そちらでも力をつけ、その技術を花火大会に生かし、演出だけでもお客さんが喜べるものをどんどん作っていきたいなと思っています。