くらし しながわ防災区民憲章を制定します

東日本大震災から15年という節目の年を迎える令和8年、品川区では「しながわ防災区民憲章」を制定します。これに先立ち、有識者の方々にお集まりいただき、区長を交えた座談会を開催しました。
自助・共助の意識向上への取り組みや防災区民憲章への期待など、さまざまなご意見をいただきました。

■〔座談会〕「しながわ防災区民憲章」制定に向けて
・矢野 忠義さん 助けあいジャパンディレクター
・大谷 敏子さん 品川消防団 団長
・浅野 幸子さん 減災と男女共同参画研修推進センター 共同代表、早稲田大学地域社会と危機管理研究所 招聘研究員
・鍵屋 一さん 跡見学園女子大学観光コミュニティ学部教授、福祉防災コミュニティ協会 代表理事
・森澤 恭子 品川区長

○しながわ防災区民憲章を制定する想(おも)い
区長:
本日はお集まりいただきましてありがとうございます。
品川区では平成26年に「品川区災害対策基本条例」を制定しておりますが、今回新たに「しながわ防災区民憲章」を制定することで、区民の皆さんの防災意識をさらに高め、一人ひとりが自助・共助の重要性を再認識し、次の世代へと引き継いでいく決意について共有できるのではないかと考えております。品川区の抱えている問題などを踏まえ、皆さんが考えていらっしゃることについてお話しいただけますでしょうか。
矢野:
これまでさまざまな活動をしてきて感じるのは、「自助・共助」という言葉は防災の業界用語になっていて、人の心を動かしにくいということです。首都直下地震が起こると予測されていますが、実際に備蓄し災害に備えている人はあまり多くないと思います。ということは、東日本大震災のような経験をしても、いまだに自助・共助の重要性は十分に伝わっていないと感じます。先日、品川区内の小学生に災害時のトイレの話をする機会がありました。実際の被災地で使用されたトイレの写真を見て「自分はこのトイレは使えない」と大きく動揺し、早速友だちに「知ってる?」と情報を共有したそうです。「自助が大切」と言っても、「自分事」として捉えることのできる伝え方をしなければ響きません。重要なのは、共感を呼ぶ伝え方だと感じました。
区長:
「自助・共助」を「自分事」に変えていくような伝え方が大切ということですね。
鍵屋:
今、75歳以上の高齢者は阪神・淡路大震災当時の約3倍、単身世帯は約3.4倍、障害のある方も約2倍に増えており、支援を必要としている人が急増しています。その一方で、近隣とのつながりは希薄になり、1997年には約42%の人が「隣近所と仲が良い」と答えていたのに対し、現在は約8%にまで減少しています。そうした背景を踏まえると共助に過剰に期待するのはあまり現実的ではありません。
浅野:
私が住んでいる地域でも、共助の実現の難しさを感じます。外国人も多く、町会・自治会の加入率も低い中で、地域での助け合いを進めるのは簡単なことではありません。だからこそ、さまざまな工夫が必要です。
災害への備えは、個人の状況によって大きく異なります。一律の情報提供では不十分で、個々の関心のあるテーマやライフスタイルに応じた、きめ細やかな情報発信が重要だと思います。また、SNSが普及し、誤った情報が拡散する危険性がある中で、行政がしっかりとした情報発信の基盤を整備することが大切です。
大谷:
品川区では今、大型のマンションが増えています。共助の取り組みに町会・自治会のコミュニティは欠かせません。ところが、マンションに暮らす人たちと町会・自治会との関係は希薄になっています。私自身マンションに暮らしていますが、隣近所とは挨拶をするだけの関係です。そうした状況でどうやって共助の関係を築いていったらよいのか、頭を悩ませています。

○普段から挨拶する関係が災害時の助け合う力に
矢野:
今回、トイレトラックの派遣で能登の被災地へ行って感じたのは、避難所によって状況が違うという点です。Aの避難所は自治会長が音頭をとって物資の配給が効率的に進んでいく。一方で、Bの避難所では3~4日もかかっている。それを見て、共助体制が築かれているところは素晴らしいと思いました。
長期間にわたる支援が実現した背景には、「子どもを守りたい」という強い思いと、それを共有する地域の人々の協力がありました。避難所の方針や支援物資の活用を「子どものため」と位置付けることで、意見の対立が起きず、自然と人々が協力し合う空気が生まれたのです。こうした当たり前の行動が、地域を一つにまとめると感じました。共助を成立させるのは、人の思いや人を愛する心に訴えかけることが大切だと実感しています。
鍵屋:
平成28年の熊本地震の際にマンションの実地調査をしたところ、普段は挨拶しかしていなかった住民同士が、災害時には自然と助け合う関係になったそうです。災害という状況は、人と人を結びつける強い力があるのです。その際に重要になるのが「ウィークタイズ(弱いつながり)」です。親密ではないけれど、顔見知り程度の関係を指します。普段から挨拶だけでもしておくことで、いざという時には助け合える関係が生まれるのではないでしょうか。
区長:
十代の若者たちと防災の話をした時に、「まずは近所の人たちと挨拶をすることから始めよう」といった提案がありました。共助の醸成には「日常のちょっとした接点」が大切だと認識しました。
鍵屋:
私たちがいま取り組んでいるのが「ひなんさんぽ」です。一般的な防災訓練のような大がかりなものではなくて、散歩のついでに避難経路を確認する、災害時に避難所として開設される施設まで行って、お茶を飲んで帰ってくるなど、誰でも参加しやすいゆるやかな訓練です。障害のある方は本格的な防災訓練には参加しづらいけれど、「家を出て避難所まで行く」ことだけでも貴重な行動になります。
大谷:
同感ですね。私も、「町内を歩きながら消火栓の場所を確認する」「雨水の冠水を防ぐために割り箸で側溝の掃除をする」といった日常的な行動を防災の一環とすることで、防災意識が自然に高まることを目指しています。

○子どもたちへ伝える命を守ることの大切さ
区長:
いろいろなご意見、ありがとうございます。皆さんのご指摘のとおり、品川区は約8割の世帯が地震に強いとされている集合住宅に住んでおり、災害時には在宅避難を前提とした備えを必要としています。都市部ゆえに地域のつながりが希薄化しているという課題もあります。一方で、品川・大崎・大井・荏原・八潮と地域ごとに異なる特性を持っています。こうした品川の特性や品川らしさといったものを、防災区民憲章にどう反映させていったらよいか。区でも模索しているところです。
矢野:
能登の被災地でトイレが使えずに苦しむのは、圧倒的に女性と子どもたちでした。せっかく助かった命でも、トイレが使えないことで体調を崩し、場合によっては命を落とすこともあります。これは絶対に避けたいことです。現在は性別を分けて語ることに慎重さが求められますが、それでも災害時には、女性や子ども、高齢者などの弱者を守るべきだと思います。
大谷:
弱い存在を守るという点では同感ですが、女性という立場で支援できることもたくさんあります。
浅野:
国際的な人道支援の考え方では、災害の影響を受けやすい人たちに、より配慮が必要だという前提があります。特に、女性や子ども、障害のある方、外国人などは、声を上げにくい状況に置かれがちなので、しっかりとした支援が不可欠です。一方で、支援を必要とする側の方たちにもできることはたくさんあります。その双方に目を向けていくのが、国際基準の考え方です。何より大切なのは、一部の声の大きな人の意見に偏るのではなく、多様な立場の人が関わり、意見を述べ、リーダーシップを取ることができる機会をつくるということです。
大谷:
そうした話を子どもたちに伝える場を、学校教育の中につくっていくことも重要だと思います。
区長:
今年度から「しながわ防災ジュニアプロジェクト」を進めています。防災意識を高めるための教材をもとに、区内中学校の授業で防災教育を実施しています。
矢野:
時間はかかるかもしれませんが、防災意識の醸成を教育の中に取り入れる必要性は強く感じます。
鍵屋:
防災とは、結局は命を守る「命の問題」なんです。命の尊さを考え、自分の命もそうだけれども人の命も大事にする。そうした対話を教育の中で進めていってほしいと思っています。

○“自分たち”のしながわ防災区民憲章を
区長:
では、最後に「しながわ防災区民憲章」への期待についてお話しいただけますでしょうか。
大谷:
今日皆さんのご意見を伺いまして、命・愛・しながわの輪というテーマを掲げた防災区民憲章となることを期待します。そして制定をきっかけに、防災教育や啓発をさらに深めていただきたいです。
鍵屋:
私は憲章の中身よりも、つくり方が重要だと思っているんです。例えばワークショップを1,000回実施するくらいの気持ちで、たくさんの対話を通じて地域の人々の中に「自分のこと」「自分たちのこと」として防災意識が浸透していく過程をつくっていくことが大事だと思います。
浅野:
私も憲章づくりの過程が、非常に大事だと思っています。つくって終わりにしないためには、「自分たちの防災区民憲章だ」と思えるように、学生たち、地域活動をする方たち、障害のある方たち、事業者など、年代・性別・立場を超えた幅広い層から意見を取り入れるワークショップをぜひ実施していただきたいです。そして、災害時は、多様な人々の人権を尊重する姿勢が防災の基本です。特に都市部にある品川区では、その視点をしっかり打ち出していってほしいです。
矢野:
防災区民憲章の制定によって、これまで変わらなかった防災意識が変わるチャンスとなることを祈っています。
区長:
今後は「品川区防災会議」や「デジタルプラットフォーム」などでも意見をいただきながら、制定に向けて進んでいきたいと考えております。本日は貴重なご意見、ありがとうございました。
全員:
ありがとうございました。

・災害時の在宅避難を想定し、昨年10月、災害用携帯トイレ1人20回分を全区民に無償配布した。併せて、『しながわ防災ハンドブック』も全世帯へ配布。
・被災時に深刻化するトイレ問題解決のため、断水時にも水洗トイレとして使用でき自走可能な「トイレトラック」を23区内で初めて導入。トイレトラックの普及に努める助けあいジャパンと「災害時におけるトイレトラック派遣協力に関する協定」を締結し、いざという時には、全国の参加自治体が駆けつけ支援し合う体制を確保している。


しながわ防災区民憲章制定に向け、デジタルプラットフォーム*を活用して、区民の皆さまと検討を行います。
※詳しくは区ホームページをご覧いただくか、お問い合わせください。
*インターネット上で時間や場所を問わず、意見を出し合い、政策に結びつける場

問合せ:防災課計画担当【電話】5742-6695【FAX】3777-1181
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