くらし 市長コラム 多摩の風第132回

■岡本太郎と未来への憂い
「芸術は爆発だ」の岡本太郎が制作した「太陽の塔」。55年経ったいまも大阪の万博記念公園に立ち続けています。
中学生だった私は、マンガ冊子やTVなどで見たアポロ12号が持ち帰った「月の石」に興味津々でしたが見る機会もなく…。
「太陽の塔」は、建築家の丹下健三氏がプロデュースし、開会式も開催したシンボルゾーンの大屋根をぶち抜くという常識破りの破壊力、そして人類の未来や神々への畏敬の念を込めた存在感のある造形物でした。
この「太陽の塔」には、金色に輝く「黄金の顔」、縄文と現在を貫く「太陽の顔」、静かに怒りをにじませる「黒い太陽」、そしてその後所在不明となった「地底の太陽」の四つの顔がありました。
当時の万博のテーマは「人類の進歩と調和」。しかし、ベトナム戦争の激化、原爆や水爆など米ソ冷戦下での絶え間ない核実験など、岡本太郎は科学技術と人類の未来への憂いを「黒い太陽」に象徴させました。
この万博会場の隣には1962年から入居が始まった「千里ニュータウン」があり、リアルな未来都市が実際に賑わいを見せ、その後、夢見る未来は「多摩ニュータウン」に引き継がれました。
先月、開会した大阪・関西万博のテーマは「いのち輝く未来社会のデザイン」。岡本太郎は「全生命が瞬間に開ききること。それが爆発だ」との言葉も残していますが、未来への憂いは払拭できたでしょうか。
(多摩市長 阿部裕行)