- 発行日 :
- 自治体名 : 東京都あきる野市
- 広報紙名 : 広報あきる野 2025年10月15日号
「秋の姿」
例年だと山地では木々の葉が色づき始めている頃です。気象庁によると、今夏の日本の平均気温は基準値からの偏差が+2.36℃となり、1898年の統計開始以降で最も高い記録を更新したそうです。また、八王子と青梅の地点で得られたデータを見ると、6月と8月の雨量が極端に少なくなっています。市内の山地でも、6月に咲くランやイチヤクソウの仲間で開花が見られなかった種類もあったり、8月に沢沿いで花を咲かせているタマアジサイも今年は輝きを失っているように見えました。9月1日には「10月にかけても全国的に平年より気温が高くなる見込み」と発表があったので、秋も例年どおりとならない年かもしれません。それでも、これまでと変わらず美しい花を咲かせたり多くの果実を実らせた植物もあるので、秋の花を紹介します。アキノキリンソウやアキノギンリョウソウなど名前に“秋”を含む植物もありますが、今回はセンボンヤリを紹介します。
センボンヤリは、山地や丘陵の日当たりのよい草地などに生えるキク科の多年草で、別名はムラサキタンポポといいます。花弁の裏面が紫色なのでこの別名がついたのですが、実はセンボンヤリは春と秋に違う花を咲かせます。別名は春の花から、そして本名は秋の花から名づけられました。秋の花は、高さ10cm程の春の花に比べて30~60cmに花茎(かけい)を高く伸ばした姿をしており、花は開かず蕾の内部で受粉する閉鎖花(へいさか)です。その姿が槍に見えるということでセンボンヤリと名づけられました。
閉鎖花は、花弁や花粉の量を少なくするなど花の作りに対する投資を減らしているため見た目は地味ですが、花粉を風や昆虫などに運んでもらうために咲いている普通の花(閉鎖花の反対で開放花という)より確実に、そして大量に実を結ぶための姿をしています。私は、閉鎖花には植物のひと味違った美しさがあると感じています。
一昨年から、日当たりのよい環境を好む植物のために整備を行っている山地には、今春、沢山のムラサキタンポポが咲きました。秋には千本の槍が見られるかと心躍ります。そして、綿毛をつけた種子が実る頃、その立ち並ぶ様子は大名行列の毛槍さながら華やかに感じられるでしょうか。
(加瀬澤)