- 発行日 :
- 自治体名 : 福井県勝山市
- 広報紙名 : 広報かつやま 令和7年6月号No.847
■鼠経ヘルニア(いわゆる脱腸)について
JCHO福井勝山総合病院
外科部長 大槻 忠良
ヘルニアとは、腹腔内容物(腸管や脂肪)が、腹壁に生じた(または生来有する)欠損部(脆弱となった部分)を通じて飛び出す状態のことで、いわゆる脱腸です。そして、左右の太腿の付け根部分に発生するヘルニアの総称を「鼠径(そけい)ヘルニア」といいます。腹部に生じるヘルニアの約80%は鼠径ヘルニアです。
鼠径ヘルニアを発症する原因は、先天性(生まれつき)と後天性(生まれた後に発症する)があります。先天性の場合、生まれたときからヘルニア嚢が存在するため、乳児期から鼠径ヘルニアを発症します。後天性の場合、立ったり座ったりという慢性的な鼠径部への圧力に加え、加齢による腹壁の脆弱化によって鼠径ヘルニアを発症します。また、前立腺の手術既往や咳を慢性的にしている方、腹膜透析、喫煙者などが鼠径ヘルニアのリスクがあるとされています。鼠経ヘルニアは放置すると年月を経て徐々に増大し、不意に脱出したものが腹腔内に戻らない状態となる(嵌頓(かんとん))危険性があります。この場合脱出したヘルニア内容物(主に腸管)が血流不全で壊死してしまい、生命に関わる事態になります。
ゆえに時間経過やお薬では治癒することはないため、手術が基本的な治療法となります。
鼠径ヘルニアの手術には、鼠径部を3~4cmほど切開する鼠径部切開法と、腹腔内に腹腔鏡(腹腔内を調べる内視鏡の一種)を挿入する腹腔鏡下修復術の2種類が存在します。どちらもメッシュという人工の膜をヘルニア門にあてがう方法となります。
腹腔鏡手術は、腹腔鏡(内視鏡カメラ)を使用して実際に腹腔内からヘルニア門と呼ばれる隙間を観察できるため、ヘルニア門の状態を把握でき確実にメッシュで覆うことができます。また両側の鼠径部を観察できるので、1度の手術で両側の鼠径ヘルニアを治療することが可能です。これを読んで適切な治療を受けられるよう、鼠経ヘルニアについて知識を深めて頂けるとよいと思います。