その他 鯖江でがんばる あの人の笑顔と素顔 vol.23

鯖江地区人権擁護委員会 会長 田中仁和(ひとかず)さん(69)
小説が好きで、歯科医で兼業作家だった上田秀人さんのファン。車好きだが、オープンドライブを楽しんだ2人乗りの「ロードスター」は最近手放したとか。写真は、法務省の人権イメージキャラクターである「人KENまもる君」の人形を手にして。

《守りたい、あなたの人権》
人権侵害を防ぐために、市民の困りごとを聞いたり啓発活動をしたりする民間ボランティアでつくる「鯖江地区人権擁護委員会」の会長を務める。普段は薬局で調剤などに携わる薬剤師の顔も持つ「二刀流」だ。「困った人の声に耳を傾けるのは薬剤師も人権相談も同じ。少しでも気持ちが楽になってもらうことが私の務めです」と笑顔を見せる。
小さい時から化学が好きで、原子の構造や化学反応などに心を奪われた。「物理なんかは全然だめだったけど、化学は違った。高校の時に出会った先生も好きだったしね」
そんな化学の知識が欠かせない薬剤師の仕事に興味を持ち、大学は薬学部に進学。勉学を重ねて国家試験もパスすると、薬剤師の資格が必要な採用枠がある福井県庁に入った。
保健や衛生などを中心に担当し2016年に退職。現在は薬局に務め、調剤などにいそしむ日々だ。「薬を出しても、実際に飲んでもらわないと意味がない。だから、患者さんに応じて丁寧に説明して、納得してもらうように心がけています」
人権擁護委員は2018年から務める。知人から勧められ、「地域のお役に立てるなら」と引き受けたのがきっかけだ。
人権擁護委員の制度は世界でも珍しい。日本の憲法は「基本的人権の尊重」を掲げる。ただ、その実現には「国民の不断の努力」が欠かせないとしている。そこで、行政と両輪をなす形で活動するのが「人権擁護委員」である。
市内には10地区それぞれに委員が1人おり、法務大臣からの委嘱を受けて活動している。業務に必要な費用を除いては、基本的には無報酬だ。
具体的には月に1回、市役所で開催している相談会に10人のメンバーが交代で訪れ、市民からの困りごとに応じている。
同様の取り組みをしている福井地方法務局武生支部(越前市)の相談会にも駆けつけるほか、小学校や保育園などにも出向いて人権教室もおこなうなど、活動の内容は幅広い。
相談の内容もさまざまだが、「メンバーたちは背景が異なっており、それぞれ人生経験が豊かな人ばかり。相談後は気持ちが軽くなって帰っていただいているし、必要に応じて適切な機関にもつないでいます」
自身も行政マンとして培った見識や薬剤師の経歴も生かしながら、相談者にふさわしい「処方箋」を見つけていくつもりだ。「相手の言葉に耳を傾け、共感し、寄り添いながら、市民の皆さんの人権を守っていきたいですね」