- 発行日 :
- 自治体名 : 福井県鯖江市
- 広報紙名 : 広報さばえ 令和7年12月号 通常版
ホノルルマラソンに挑戦する高次脳機能障害患者 鶴﨑陸太(つるさきりくた)さん(22)
好きな言葉は、中学生時代に陸上部の顧問から教わった「継続だけが力なり」。漢字の「陸」には国や大陸を連想させるようなスケールの大きさがあることから、名前には「大きな舞台で活躍してほしい」との願いが込められている。
今年4月から福井赤十字病院で事務補助として勤務している。
《継続だけが力なり》
「西山動物園までの上り坂は良いトレーニング。本番のレースまでにもっと力をつけたいですね」
9月7日午前5時45分、西山公園。着地の感触を確かめながら芝生広場を周回し、動物園まで上ると、朝焼けに染まった街を見渡した。夏から始めた週末の習慣は、12月に米ハワイで開かれるホノルルマラソンに向けた特訓だ。駅伝選手だった高校時代に救急搬送され、高次脳機能障害を負って約6年。リハビリを経ての復帰のレースに、感謝と再起の思いを込める。
小さい頃から走るのが好きで、神明小学校5年時には校内マラソン大会で歴代新記録を出した。中央中学校で陸上部に入り、駅伝の強豪・鯖江高校に進んだ。
全国を目指してひた走っていた2年生の冬だった。日野川沿いでの練習中、頭痛に襲われ救急搬送された。原因は脳動静脈奇形破裂による脳出血。意識はなく、母・雅子さん(58)は医師から「目を覚ます可能性はゼロに近い」と告げられた。
幸い、意識は徐々に回復していったが、右半身のまひなど多くの障害が残った。当時は新型コロナウイルスの影響が広がっていた頃。家族ともなかなか会うことができない病室で、雅子さんに泣きながら電話した。
「どうして僕はここにいるんだ」、「僕は障がい者なのか」、「這ってでも帰るから、迎えに来て」
それでも、家族や病院関係者たちの支えで懸命にリハビリを続けてきた。一番の支えは「また走りたい」との願いだ。継続だけが力なり――。恩師の教えを胸にひたむきに自分との戦いを続けると、つえをついて歩けるようになるまで回復。膝の補助具が完成した今年8月からは、西山公園で歩く練習も始めた。
家族以外の支えも大きい。写真投稿アプリ「インスタグラム」で知り合った1歳下の佐川陸(りく)さん(愛媛県)だ。「同じ高校2年の時に、同じような障害を負っているんです。しかも、名前には同じ『陸』。共通点が多すぎてゾワっとしましたよ」。運命ともいえる出会いを果たした2人は、患者フォーラムに一緒に参加したり、お互いの家を訪ねるなどして友情を育んできた。
交流を深めるなかで生まれたのがホノルルマラソン出場の目標だ。走ることはまだできないが、10kmの部ならば完走までの時間制限もないため、雅子さんや父・哲夫さん(59)のサポートを得ながら歩いて大会に臨む。「これまでのリハビリを通して、継続することの大切さを改めて実感した。今まで多くの病院にお世話になったので、レースでの姿を通して支えてくれた皆さんに感謝を示したい。それが困難に向き合っている人へのメッセージにもなればうれしい」
