文化 ふるさと昔 よもやま話(163)

■『若狭路の王の舞~中世の芸能を伝える祭り~』発刊に寄せて
若狭路(嶺南地域)の神社の祭りで伝承されてきた民俗芸能の「王(お)の舞」について紹介する『若狭路の王の舞‐中世の芸能を伝える祭り‐』が、今年3月、若狭路文化研究所から刊行されました(発売元岩田書院)。本書では、全日本写真連盟会員吉田俊雄さんの撮影写真により、若狭路の王の舞とその祭りの様子が、54頁にわたり生き生きと紹介されています。そして、若狭路の王の舞とその祭りの特色や歴史等について簡単な解説を加えるとともに、10頁にわたり詳細な参考文献一覧を収録しており、王の舞の見学・撮影・調査・研究等のガイドブックとして活用できるものとなっています。
本書では、近年復活した1カ所を含め、17カ所の王の舞を紹介していますが、彌美神社や宇波西神社のように、1時間近い上演時間を要するものがあれば、ほんの2分足らずであっという間に終わってしまうものもあります。演者は、大人の場合もあれば子どもの場合もあります。衣装や被り物も必ずしも一定していません。鼻高面をつけること、鉾を持つことの2点が、かろうじてすべてに共通する点といえそうです。
王の舞とその祭りを伝えてきた地域とその組織について目を向けてみると、その多くは、トウヤ(頭屋・当屋・当家などと書きます)を中心に祭りの諸準備や神事が営まれていますが、王の舞や獅子舞、田楽等の芸能については、集落や家筋で固定して分担してきたものもあれば、固定せずに毎年集落あるいは当番組で交代して担当してきたところもあり、そのあり方は一様ではありません。
王の舞は、獅子舞や田楽等とともに、平安末期から鎌倉期にかけて、都の祭礼をにぎわしていた芸能ですが、荘園制度を背景に、鎌倉時代以降、若狭路の荘園鎮守社の祭礼に伝えられていったと考えられています。若狭路の王の舞や伝承組織のさまざまなありようは、長きにわたり伝承される中での、それぞれの地での変化を反映したものであり、そのすべてが貴重な無形民俗文化財です。少子高齢化や過疎化等による担い手不足の問題は年々厳しくなってきていますが、800年以上前の中世の芸能の姿を今に伝える若狭路の王の舞とその祭りが、これからも永く伝えられていくことを願っています。
(町歴史文化館運営委員会 委員 垣東敏博)