健康 みなさんの健康

■医療の進歩と、自分や家族の「健康」のためにあなたができること
山梨大学医学部附属病院 糖尿病・内分泌内科 特任助教 内沼裕幸

「死亡率を半分にする薬がありますよ!」と言われたらどのように感じますか?
多くの人が、眉唾(まゆつば)な話だ…と感じるのではないでしょうか。その感じ方はとても正しいと思います。ところが、この話が決して大げさとは言えない薬が開発されるのが、医療分野の凄いところなのです。
私の専門領域である糖尿病は、ここ20年で大きく治療が変わりました。それまで糖尿病というものは、どのような人であっても糖尿病じゃない人の血糖値を目標にすべきと考えられてきました。しかし、2008年に発表された論文が大きな反響を呼びました。長く糖尿病を患っている人に、血糖値を厳格に下げることを目標に治療した結果、反対に死亡率が上がった(NEnglJMed.2008)、と報告されたのです。
それから、ただ血糖値を下げるのではなく、死亡率を下げる、心筋梗塞(しんきんこうそく)や腎臓病といった病気を防ぐためにどのような治療がいいのか、さまざまな研究が行われてきました。その後、ここ20年で糖尿病に対する薬の種類は2倍近くに増えました。患者さんの条件はありますが、冒頭で述べた死亡率を半分にすると報告(JAmCollCardiol.2018)された薬剤も2014年から使えるようになりました。薬以外の治療も同様で、20年前には運動は20~30分連続して行うよう指導していましたが、今では1度の運動は1分40秒ほどの短い時間でも有効に血糖値を下げることがわかっています。
このように医療分野は日々進歩し続けています。だからこそ一度、あなた自身の健康を見つめ、家族や周りの人と健康について話し合ってみてほしいのです。もし「健康診断で異常を言われているけど、病院行っても変わらない」、「糖尿病って言われたけど今困ってないから」、「もう同じ薬を長い間飲んでいるよ」なんて人がいたら、ぜひ一度専門外来の受診を検討してみてください。昔から使われているとてもいい薬もある一方で、今だからこそ提示できる治療の選択肢もあるかもしれません。
「健康」という言葉の定義は人によってさまざまかと思います。ただ血糖値を下げる、ただ病気を治療するのではなく、治療の結果、より健やかに日々を過ごす手伝いができたらいいな、と思いながら我々は診療をしています。ここまで読んでくださった人が、ご自身や周りの人の「健康」と改めて向き合ってくださり、より良い日々を過ごすきっかけになれば嬉しいです。

企画 一般財団法人 里仁会