- 発行日 :
- 自治体名 : 長野県中野市
- 広報紙名 : 広報なかの 2025年5月号
地域の未来を照らすみなさんを紹介します。
■表具師 北岡隆洞、花月
きたおか・りゅうどう、はづき 三代目の隆重さんと共に三世代で創業明治36年の表具店(有)芳仙洞を営む。古書画などの修復やオーダー作品を手掛けるほか、現代の暮らしに合った表装作品を提案している。
◇次代を見据えて時代を切り拓く
「傷んだ掛け軸を直す、額装やびょうぶは作り替えて直す、障子や襖を張り替える。昔から紙を扱うのは表具屋の仕事でした。」
これまで数々の古書画や仏画の修復を手掛けてきた北岡さん。その仕事には次世代を見据えたこだわりが詰まっている。
「表具技術の中心は『糊(のり)』。毎年、気温が低く雑菌が繁殖しにくい大寒の時季に、小麦でんぷんを使った昔ながらの手法で『古糊(ふるのり)』を作っています。」
古糊は掛け軸の裏打ちにのみ用いられる特殊な糊である。発酵を繰り返すことで適度に接着力が弱まり、作品への負担が少なく、修復の際にはがしやすい。掛け軸の仕立てには欠かせないものだが、完成に10年以上かかることなどから、この手法で糊作りをしているのは県内で(有)芳仙洞だけだという。
「作品を残し、永く受け継いでいく上で修復は欠かせません。いつか訪れるその時に、次の表具師が安心して作業できるよう、手間はかかりますが見えないところも手は抜かない。弊社の信念の一つです。」
そんな北岡さんが提案する新しい表装表現『箔アートパネル』。染めた和紙と金銀の箔を使用し、現代の建築様式や生活に合わせた作品を展開している。表具技術を生かして、誰もやっていないことを―と、構想は20年前から。展覧会を開くようになったのは2018年以降で、伊那市で毎年開催しており、いろいろな方とつながるきっかけにもなっているという。
「書家の久保皐泉(くぼこうせん)さん(中野市出身)からは、現代の暮らしに溶け込む唯一無二の作品を作りたいとご依頼いただきました。私たちの思いと重なるところがあり、ご提案いただく内容に驚くこともありますが、いつも挑戦の気持ちで取り組ませていただいています。」
表具を意識することが少ない現代でも、たくさんの方に知って、身近に感じてもらおうと、毎月第3金曜日にアートパネル作りのワークショップを開催。
「気軽に遊びに来ていただき、まずはこんな店があるということを知っていただければと思います。」
小学生から参加でき、普段触れることのない金銀箔や和紙を扱う体験は毎回好評だという。
「連綿と続く中野市の芸術文化を、表具屋としてどう支えていくか、どう広めていくかを常に考えています。」と四代目の隆洞さん。
「とはいえ、先のことはわからない。だからこそ目の前の作品に全力で向き合っていきたいです。」と五代目を目指す娘の花月さん。
誠実な手仕事と高い技術力は、明治時代から確かに受け継がれている。