文化 キラリ★中野のチカラ No.130

地域の未来を照らすみなさんを紹介します。

■狙った獲物は逃がさない
オーボエ奏者 藤井貴宏
ふじい・たかひろ 中野市出身、ドイツ在住。晋平少年少女合唱団に立ち上げメンバーとして6歳から参加。県立須坂高等学校、東京藝術大学音楽学部器楽科オーボエ専攻卒業。兵庫芸術文化センター管弦楽団第一期生として活動した後、H.シェレンベルガー氏の招きにより渡独、現在はドレスデン・バッハゾリステンのメンバーとして活動するほか、国内外問わず数々の演奏会に出演。
指揮者としても活躍しており、全国各地のアマチュア演奏家による楽団「Musikkapelle Nagano」を主宰。

「吹奏楽部に入るつもりはありませんでした。友達のお兄さんにバレーボール部に誘われていたし、当時は医者になりたかったので。」
そんな藤井さんに声をかけたのは当時の学級担任で吹奏楽部顧問の先生だった。
「見学で聴いた部長さんのオーボエがすごく素敵だったんです。難しくて、人数が少なくて、目立つ。これしかないなと。ひねくれてますね(笑)。でも、自分を含め志願者が10人もいました。」
絶対にオーボエ担当になると心に決めた藤井さんは9人に交渉。一週間後、晴れてたった1人の志願者となった。音の出ない備品のオーボエを見かねた両親が新品を買ってくれたことをきっかけに更に熱中していった。とにかく部活以外でも吹き続け、3年で部長になると他校の先生に頼まれ指導に行くことも。そんな中、コンクール前に1回だけと両親に頼み東京まで受けに行ったレッスンで、藤井さんの目指す進路が決まる。
「また指導してほしいと言った私に先生が藝大を勧めてきたんです。これは行くしかないと思って、県外の高校への進学も含めて両親に相談しました。かなり驚かれたのを覚えています。」
その後、須坂高校に入学し、藝大受験に向けての生活がスタートした。オーボエの練習やソルフェージュなどの勉強時間を確保するため、教科担当の先生に単位を落とさない範囲で授業を休むことを宣言。同級生には必ず出ないといけないホームルーム以外は帰らせてほしいと土下座した。
「とにかく時間がなかった。藝大に行くことしか頭になくて、そのためにはなんでもしたし、それ以外は些細なことでした。自己主張が強いことは時に良くないこととされますが、やりたいことを実現するには必要なことだと思っています。」
高校生活の全てを懸けて臨んだ受験。つかんだのは現役合格の夢だった。
「狙った獲物は逃がさない。そんな気持ちでずっと音楽やオーボエに向き合ってきました。本当にものにしたいなら、自分から行動するしかない。他人はきっかけをくれるかもしれないけれど、他人の言葉で動く人になってほしくない。」
そんな気付きを地元高校生にも得てほしいと、自身が主宰する楽団と共演する場を設ける。
「気持ちのある子が上を目指せるようなつながりを、このふるさと中野市で作っていきたい。」